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【特別寄稿】

新規事業のきっかけをつかむ

株式会社経営学校 代表取締役  
左近 祥夫
  
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1 目的

多くの製造会社は新規事業を実現したいと考えている。しかしいくつかの製造会社は踏み出せない。確固たる考えがないからである。
本稿は技術系管理者に焦点をあて、経営者とともに、技術系管理者が新規事業の開発に踏み出すための考え方を提供する。

2 前提

(1)新規事業とは
新規事業とは「個人または会社の信念が技術を活用し社会に働きかけることである。外部にはそれ(新規事業)は信念、社会、技術(三者)の融合としてその形を見せる」1。すなわち、新製品が売り出された結果を意味するのではない。その(失敗も含めた)継続的な活動を意味する。社外の人には結果だけしか見えないが、その推進者には試行錯誤の連続である。

本稿は、信念のよりどころをSDGsに求め、社会を取引先ととらえ、技術の開発を在来技術とする。ただし、取引先は直接の顧客だけでなくその先の女性消費者を視野にいれる。在来技術を狭く理解したのでは新規事業を開発することは不可能であるので在来技術を生かしつつも目的を達成する方法を紹介する。


(2)取り組み状況
わたしたちは中小企業を対象にし毎年企業診断をしているが、企業診断の対象会社が新規事業に取り組んでいるか否かを調査した2
  調査年
  対 象
  所在地
  業 種

2018年
中小企業
日本国内(おもに関東地方)
製造業 11社 建設業 2社
卸売業 2社 小売業4社 合計19社

調査は新規事業を新市場開拓、新製品開発、多角化、事業転換にわけて「これらのいずれかに取り組んでいるか?」を質問するとともに社長から内容を聞いて確認した。その結果は下表のとおりである。

している していない
新市場開拓 22.5% 77.5%
新製品開発 25.0% 75.0%
多角化 18.8% 81.2%
事業転換 0.0% 100.0%

上記結果をみて、わたしは「多くの社長が意欲を示すものの、実際に新規事業に取り組んでいる中小企業は少ない」と受け止めた3
新規事業にはハードルがある。20%程度の会社はハードルを越えたが、80%程度の会社は超えることができない。最大の課題は人材である。すなわち、「新規事業を推進する能力」である。ハードルを乗り越えるために「手ほどき(書籍、セミナー、コンサルティングなど)」が必要である。

(3)製造会社の強み
製造会社の強みを確認する。製造会社は、一般に、次の強みをもつ。
長期的に安定した経営をしている。
東京商工リサーチは2018年調査「30年以上の『老舗』企業倒産」において、倒産した企業の平均寿命が23.9年であるが、製造業がもっとも長く33.9年であるという。ちなみに、もっとも短い業種は金融・保険で11.7年である。
日本人の性格にあっている。品質にみられるように、日本人はものの内面を見る能力があるため、世界的に見て競争優位は揺るがない。
たとえば、日本の製造会社と中国のそれとを、金型製造を例にして比較すると、全プロセスに目配りし高品質な製品を継続的に生み出す能力はいまだ日本人が中国人より長けていることがわかる。日本の金型会社の工場長のような、金型が顧客に渡った後も目配りし、全体最適をはかる人材は中国にいない。長期的に見て中国に対する日本の優位は揺るがないだろうし、世界的にも日本の製造会社は可能性を秘めている。

3 SDGs

3.1 国際的視点から見る

(1)必要性
わたしは、毎年、仕事の関係でタイ・バンコク市で一週間ほどを過ごす。日本とタイとの一人当たり国内総生産を世銀レポートで比較するとは下表のとおりである(2016年)。

一人当たり国内総生産
日本 38,968米ドル 6.5
タイ 5,911米ドル 1

一人当たり国内総生産で比較すると、日本人はタイ人より6.5倍豊かなはずである。しかし、実際にタイで生活してみると。ほぼ同じレベルの生活ができることを知る。バンコク市は生活費が安いし品物が潤沢にあり容易に入手できる。ほしいものはなんでも買えるのである。さらに、朝の起床から晩の就寝までタイ国のほうがおおらかに生活できる。
タイ・バンコク市から日本を見ると、「日本ってどうなっているのだろうか?」と疑問に思う。これはタイだけではない、アメリカイから日本を見ると日本が低成長にあえいでいるように見えるし、中国から日本を見ると人間のつながりの無いことが見えてくる。いったん、わたしたちの国内の認識をクリアーして、国連(UN : United Nations)が定めた世界的な視点で日本を見てみよう。

(2)世界がもし100人の村だったら
このようなタイトルの本がもう10年ほど前にでた。いまでも色あせていない。わたしの手許に完結編4がある。次の言葉から本文が始まる。

   この250年、
   人の流れは農村から都市へ
   とぎれることなく続いています。
   21世紀、
   この流れが加速します。
   20世紀のはじめ、
   2億2000万人だった都市の人は
   100年後のいま、
   34億人です
  さらに次のようにも言う(p.18)。
   都市に住む51人が
   75%の石油や石炭や天然ガスを使い
   80%の温室効果ガスを出しています

これは製造会社にとってビジネス・チャンスではないか。電力を考えよう。現在の電力は、大きな発電所で大量の電気を作り遠い距離を送電線を介し各家庭に供給されるが、規模の小さな数多くの発電をすれば相当程度がまかなえる。地産地消の発電所である。風水害にも強いし安全である。
実は、わたしの関係する会社は植物から油を搾り、それを使って電気をおこす事業をミャンマーで行った。ジャトロファという植物は南アジアに多く自生しているのだが、それから油を搾り取ることができる。すべての村に発電機を設置する事業を始めた。しかし、軍事政権から変わった民主政権はこの事業を継続しなかった。わたしの関係会社はミャンマーからの撤退を余儀なくされた(2015年)。
現在、日本の環境省が推進する温室効果ガス削減政策に後押しされ、国内で植物「ジャトロファ」に由来する油から電気を作る事業開発が模索している。

  ちなみに、同書は次のようにも言う(p.26)。
   世界がもし100人の村だったら
   2人は日本の人です。
   この2人が出す二酸化炭素は、
   100人が出す二酸化炭素の平均の
   5人分です
   そのうち
   32%は火力発電所や製油所
   31%は工場
   20%は車
   9%は会社や病院や商店
   5%は家庭
   3%は廃棄物処理施設などが
   出しています

(3)SDGsとは
SDGs(Sustainable Development Goals)は日本語で持続可能な開発目標と訳される。ローマ字S・D・Gは大文字であるが、最後は小文字である。これは複数を表す「s」だから、である。
  1. 意味
    SDGsは国連が定めた開発目標である。2015年9月、国連に加盟する193カ国すべてが賛成して採択された。
    気候変動、飢餓などを背景に、地球環境と調和した開発でなければ人類の将来はないという認識のもと、地球と人類が繁栄しつづけるための世界共通の目標である。

  2. 内容
    SDGsは17の領域で目標を設定し、それぞれの領域でターゲットを設定してある。17領域における各一つの目標と、その下にあるターゲット(合計169)から構成される。
  3. 項目ごと評価
    国連の研究者グループが、2015年に採択して3年を経過した2018年7月に発表した評価は下表のとおりである。ちなみに日本は調査された156カ国中15位であった。

    目    標 一人当たり国内総生産
    良い まあまあ
    良い
    あまり
    よくない
    良くない
    1 貧困をなくそう
    2 飢きんをゼロに
    3 すべての人に健康と福祉を
    4 質の高い教育をみんなに
    5 ジェンダー平等を実現しよう
    6 安全なトイレを世界中に
    7 エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
    8 働きがいも経済成長も
    9 産業と技術革新の基盤をつくろう
    10 人や国の不平等をなくそう
    11 住み続けられる街づくりを
    12 つくる責任、つかう責任
    13 気候変動に具体的な対策を
    14 海の豊かさを守ろう
    15 陸の豊かさも守ろう
    16 平和と公正をすべての人に
    17 パートナーシップで目標を達成しよう

  4. ランキング上位の国
    評価において上位にランクされた国は下記のとおりである。
    第1位:スウェーデン 第2位:デンマーク 第3位:フィンランド
    第4位:ドイツ 第5位:フランス 第6位:ノルウェー 第7位:スイス
    第8位:スロベニア 第9位:オーストリア 第10位:アイスランド
    第11位:オランダ 第12位:ベルギー 第13位:チェコ 第14位:イギリス
    第15位:日本

3.2 どう活用するか

(1)第9目標「産業と技術革新」を例として
本稿と深い関係のある目標9を取り上げる。ここは主に製造業を想定し、インフラ、産業、イノベーションがキーワードとなっている。
  1. 本文
    目標およびターゲットを簡潔に短縮して示す。
     目標9
      産業と技術革新の基盤をつくる
     ターゲット
      ①インフラを開発する
      ②雇用を創り出し、産業セクターを育てる
      ③金融サービス、バリューチェーンおよび市場へのアクセスを拡大する
      ④クリーン技術および環境に配慮した技術・産業プロセスの導入拡大をはかる
      ⑤イノベーションを促進させ研究開発従事者数を増加させる

  2. 世界が求めているもの
    世界の各地域の人たちは、現在の生活に比べて、一段階の向上を求めている。たとえば、適量の清潔な水を飲むことのできない人がいっぱいいる。ハイテクを駆使した飲料水(例えば、糖の吸収を抑えるトクホ(特定保健用食品))を欲しいのではない。
    ただし、その国・地域特有の課題があるので、大量生産してばらまく方法は通用しない。ミャンマーの村の住民に井戸を掘り地下水を供給する事業を一律に行えば清潔な水の恩恵にあずかることができるか、一概には、言えない。というのは、そもそもミャンマーの土壌は有害物質に汚染されているため、井戸水が汚染されている可能性がある。赤ん坊・年少者が飲んだ場合、あるいは成年者といえども長期的に摂取した場合、身体内部に疾患の生じる可能性がある。
    雨水をためる装置が欲しい。上記①インフラを開発するという意味は、井戸掘りではないし、水道工事ではない。雨水をためる大きな槽を開発する意味である。上記④の産業プロセスの導入拡大とは。その継続的な維持を村ごと教え、定着させることである。
(2)SDGsの活用
視線を日本に戻そう。日本製造会社の前途が洋々としており、可能性に満ちていることを知るだろう。
あなたが少年であった時代から現在までを思い出し、あなたに操作可能な技術を整理してみよう。そのうえで日常生活を見まわしてみよう。「これは改良できる」「あれば違った姿が望ましい」という発見があるだろう。
たとえば、あなたの家庭において電子レンジの前に立ってじっくりと見てみよう。電子レンジとは、パンを焼く熱線と、電子誘導で励起して加熱する技術とをいっしょにした、最初にシャープ株式会社が作り、どんどん機能が追加して現在に至った器具である。昨今は、「AI(人工知能)」が搭載され、すこぶる値段が高い。たしかにパンを焼くトースターの部分は必要であるし、冷凍食品を加熱するレンジの部分も必要である。しかし、家電量産店で販売されている立派な電子レンジは、食文化に寄与する道具であろうか、疑問である。
一人ひとり、あるいは一軒一軒の家庭にあった電子レンジを開発する余地がある。すなわち、大量に、効率的に製造し押し出す領域とともに、個人・家庭の置かれた状況にあわせたデザイン、サイズ、操作性の電子レンジが必要である。SDGsが提唱する「イノベーションを促進させ研究開発従事者を増加させる」とは、一人ひとりの置かれた状況に合わせたものづくりを言っている。

4 取引先

新規事業は信念をもとに社会へ働きかけることであるが、社会とは、第一に取引先(顧客)であり、第二に取引先の先に広がる消費者である。まず、取引先から情報を引き出す方法を述べ、次いで消費者のなかの女性について述べる。

4.1 取引先情報

(1)小さな事例
まずわたしの経験を述べる。複写機の部品であるオゾンフィルターである。
会社勤務を始めたころ、品質管理課の一員として、上司(係長)とともに、取引先であるFX社を訪問した。わたしの勤務する会社が不良を出し、その原因・対策を生産技術者に説明するとともに、「二度と同じ不良は出しません」と謝ることが目的であった。
訪問の目的が終わり雑談になった。FX社の生産技術者がポツリと「うちにも直したい箇所があるのだが・・・」と言った。何かと耳をそば立てると、「そもそもコピーとは高電圧でドラムを帯電し、ドラムに巻いた紙にトナーをふりかけ、熱圧着する原理である。複写機のなかでは空気中の酸素O2がオゾンO3になる。酸素に還元して室内に流さなければいけない。しかるに、現在の当社の還元能力は40%程度である」と説明してくれた。
上司(係長)とわたしは会社に帰り、「やろう」という決心のもと、課長に話し、さらに社長に話し、開発の許可を得た。ちなみに品質管理課が商品開発をすることに誰も異議を唱えない社風であった。
三年ほどを要したがオゾンフィルターは完成した。オゾンの分解率は99%と発表した(実際には100%であったが、その表現は遠慮した)。FX社を手始めに、CN社、MT社など日本のすべての複写機メーカーに採用され。さらにFX社を通してアメリカにも輸出された。この経験を踏まえて以下を述べる。

(2)顧客の分類
製造会社の顧客には製造会社と販売会社とがある。機械・自動車・化学の分野は前者である。長いサプライチェーンのなかに位置付けられる。食品・日用品・工具の分野は後者である。自ら販売することもあるが、多くの場合、販売会社に卸す。
(3)顧客が製造会社の場合
顧客が製造会社である場合、その製造会社の困りごとを受け止める。どのような会社であっても、困りごとはあるものである。、経常的な取引のある場合が多いので、普段のコミュニケーションのなかから把握する。
  1. 営業員
    営業員の役割は注文をとることではない。顧客を理解することである。新製品を宣伝し注文を受け、あるいは顧客クレームを受けるが、それらの手段を通して顧客の困りごとを聞き出すことが役割である。
  2. 品質保証員
    品質保証員が訪問する主たる目的はクレームへの対応である。顧客の声をじっと聴いてみよう。あなたの会社の問題を責めているが、その奥に顧客の困りごとを推察することができる。何度かの訪問を経た後、「そこのところ、うちの会社は解決できます」と提案する。
  3. 保守員
    保守員は、現場に入り込み、作業の状況を直接的に観察することのできる立場にある。製造会社の作業員が置かれた状況を観察し、当社の納品した品物および職場全体を見て、質問することができる。顧客の状況に課題があることをキャッチできるだろう。
(4)顧客が販売会社の場合
あなたの会社の経営者、営業員、製造員は顧客の商品保管庫、陳列されている売り場、廃棄物が集められるヤードを見ることができるだろう。
商品保管庫をのぞこう。業者ごとのトラックが、または混載されたトラックが横付けされ、パレットに積まれた商品が運ばれ、段ボールが開けられ、狭い棚に整然と格納される。売り場に回ろう。商品棚の上部・中部・下部に、または平置きされて、置かれている。最後に裏手のヤードをのぞこう。段ボールや廃棄物が積まれている。
これらを見学し、段ボールに入った商品は取り出しやすいだろうか、棚に並べられた商品は消費者の目につくだろうか、あなたがターゲットと考える消費者が手にとってくれただろうか、現場で気づくことができる。あわせてライバル会社の商品を勉強することもできる。

4.2 信念

あなたは顧客の困りごとを知るだろう。しかし、いまだ信念にまではなっていない。「この問題はこの会社、このお店だけに特有ではないだろうか」という疑問が生じる。この顧客一社だけのために上司、経営者に話すことはできない。相当の量の需要を確認する必要がある。
同じような困りごとがあると推定される会社を営業員といっしょに訪問し、あなたの会社は「このような製品があった場合、御社は使うか」を調査する。多くの需要を確認すると、あなたの考えは信念になるであろうし、そのとき、上司に「やりましょう」と提案できる。

4.3 女性消費者

アメリカ、日本、ヨーロッパなど先進国では、女性が購買の主導権をもっていることが多い。家屋、自動車、家具など高額な商品において女性の発言が強く影響する。ましてや、食料品、日用品などでは女性が決定する。ここでは、製造業の新規事業を開発するにあたり、女性性(男性に比べた女性の特徴)を考察する。

(1)男性・女性
昨今のジェンダー論では男女の能力に違いはないと主張されているが、ここでは男女の能力に言及するのではなく、男性的な見方、女性的な見方があることを是認することから始める。
日本の人口、寿命および自殺比率を男女別にみると下表のとおりである。男性・女性はほぼ同じ数が生まれるが、総人口に占める数は男性に比べて女性が多いし、平均寿命は女性の方が長く、自殺比率は男性が2倍以上である。男性と女性のあいだで生活に対する考え方に違いがあると思う方が自然であろう。
男性 女性 合計
総人口 61,842 65,253 127,095
平均寿命 81.09 87.26
自殺比率 69.5 30.5 100
注:
注:
総人口は、2015年、単位:千人である。平均寿命は、2017年の厚生労働省「簡易生命表」による
自殺比率は、厚生労働省が発表した2017結果、単位:%

男性と女性の考え方の違いは、現時点で、科学的にはわかっていない。身体の構造が異なることは医学的に明確であり常識化しているが、身体的違いと心(=考え方)とのあいだの具体的関係はいまだ解明されていない。そもそも心(脳ではない)が解明されていないので身体的違いとの関係はわかっていないのである。
その違いを大昔の狩猟生活に求める文献5はある。そもそも狩猟生活はヨーロッパに特徴的である。男女の考え方の違いはアジアにも認めることができる。さらに、ヨーロッパに限っても、狩猟生活が終わった時点から差異が解消される方向に向かっているのかと考えると、はなはだ疑問である。

(2)女性性の考察
女性はどのように社会を見ているのだろうか。
  1. 考察の根拠
    あなたが男性であろうと女性であろうと、女性の見かたを知るには、直接的に「あなたはどう見ますか?」と抽象的な質問を女性にするより、いささか迂遠な方法をとったほうが真相に近づける。ここでは清少納言枕草子に女性性を探ろうと思う。
    本稿に取り上げる理由は次のとおりである。第一は、彼女は1000年前の女性であるが、現代女性と変わらない感覚を持っているのである。たとえば、現代の女性は「かわいい」と評価する。対象は身の回りの小物から老若男女の人物にまで広がる。たとえば加藤一二三(将棋)がかわいいといわれる。かわいいと評価された対象はその女性の思考のなかに組み込まれる。これを1000年前にやったのが清少納言である。第二に、彼女の評価は「うつくし」「うるはし」「きよし」「めでたし」など多岐にわたるが、彼女の特徴は肯定的な評価が多く、日本的と思われる「あはれ」など否定的な評価が少ない。そのため、海外で翻訳出版されており、国際的愛読者がいる。すなわち彼女の感覚は国際的である。

  2. 清少納言の紹介
    清少納言は詩歌の道では名家のお嬢様に生まれた。祖父、父の和歌が小倉百人一首に採用されており、彼女のも採用されている。しかし、身分は下級官僚の受領(現在の地方公務員)であり、生計が豊であったとはいえない。才色兼備の評判が立ち、30歳ころ、中宮(天皇の奥様)の女房になった。女房とは、房(部屋)を与えられた女官である。

  3. 見方
    まず、枕草子のなかから例を挙げる。現代語は拙訳である。
    原文(第72段の一部)
    ありがたきもの、舅(しゅうと)にほめらるる婿(むこ)。又、姑(しゅうとめ)に思はるる嫁の君。毛のよくぬくる銀(しろがね)の毛抜。主そしらぬ従者。露のくせなき。引用終わり
    現代語訳
    めったにないもの
    舅にほめられる婿、姑に褒められる嫁。(一般にぜいたく品に実用的なものはないのだが)毛のよくぬける銀製の毛抜き。主人の顔色を気にすることなく仕事に励む従者。これぽっちも癖のない人。
    彼女は、彼女の前にあるもの・者を、直截的に評価する。けっしてもの・ことの改善とか改革を願っているわけではないし、精神的向上を願っているわけでもない。当時の仏教思想にも無縁である。その場を肯定し、自分の立場を是認し、そこを楽しんでいる。
    現代の多くの女性は現状把握に長けている。たとえば、男性社員が髭をそっていないとか同僚女性社員が昨日と同じ服装であることを素早く観察している(男性は気づかない)。だからと言って、それを「他山の石」とすることはない。自分は自分目で周囲を見る。
(3)製造会社の顧客としての女性
現代社会における購買の主導権が女性にあるといわれるが、さて、製造会社はどう考えればいいのだろうか。
  1. 検討会社
    一般論で論じると焦点がボケる可能性があるため、ここでは、電動工具を製造・販売する実在の会社をもとに事例として検討したい。
    当社の概要は下記のとおりである。
      所在地
      取扱製品
      用 途
      規 模
      工 程
    東京
    電動工具
    仏像彫りなど主に男性の趣味
    従業員35人
    設計、製造、販売の全プロセスを当社内で行う
    当社の特徴は次のとおりである。
      商 品
      展示会

    商 品 木材を削る・彫ることはできるが、人体に危害を加えない。人体にあてるどモーターが止まる。特許取得済み 展示会 日本国内はもちろんアメリカ、アジアなど世界的に出品。顧客は、特約店・個人であり、輸出もしている

    昨今、趣味としての仏像彫りが盛んになっている。カルチャーセンターのなかに仏像彫り教室がある。指導員のていねいな指導によって素人の受講者が高さ20cm程度の仏像を彫ることができるまでに成長する。ただし、受講者は男性が圧倒的に多い。
    当社の電動工具は男性の趣味に支えられている。多くの礼状が作品写真とともに送られてきており、当社の会議室に入ると、その壁面は礼状と写真で埋め尽くされている。20年前は鮭を口ですくう熊の木彫りが多かったが、昨今は、阿弥陀仏をはじめとする仏像が多い。

  2. 男性性・女性性
    彫刻は、現在、男性の客が多いのだが、男性に限ったことではないだろう。女性だって木彫りをするであろうからマーケットを女性に広げることは可能である。
    どうしたらいいだろうか
    第一に商品を変える必要がある。
    女性は「電動工具」を使わない。「電動工具」ではダメ。
    たとえば、ペン形状の電動工具などいかがであろうか。
    口紅容器を想定するデザインで、軽くて、操作性が容易な、かつ安全なものである。

    第二に、女性にとどく販売ルートを工夫する必要がある。
    無印商品など昨今のライトな商品が売られているお店に置かせてもらう。ビレッジ・バン・ガードなどもいいであろう。
    ちなみに、無印商品の客は90%が女性であり。ビレッジ・バン・ガードは男性と女性が50%であるが、女性に購買決定権のあることがお店のなかを観察するとわかる。
    第三に、何を彫るかといえば、あらたな対象物を見つけ出し提示する必要がある。そもそも女性は仏像など彫らない。仏像に理想像を求めるのは男性である。女性から見ると仏像は「やぼったい老人像」である。女性は現実を見つめる。たとえば、女性自身を美しく見せる装身具、部屋をきらびやかに飾る装飾品に興味がある。これらを女性の前に見せる工夫が必要である。

    5.管理技術の援用

    どのような新規事業であろうとも在来の技術の延長線上にある。そもそも人はまったく関係ない技術を操作することはできないのである。社外からみると革新的に見える技術も、それを担当した人には、「発展させた」技術である。
    発展させるには①他人の力を借りるか、②目的を達成する別の手段をとるか、である。他人の力を借りる方法としてオープンイノベーションを紹介する。目的を達成する別の手段をとる方法としてブレイクスルー思考を紹介する。

    5.1 オープンイノベーション

    (1)意味
    オープンイノベーションとは、自社だけでなく、他社、大学など異業種がもつ技術やアイデア、知識などを組み合わせ革新的な新規事業を開発することである。

    (2)事例
    わたしたちが複写機のオゾンフィルターを開発したさい、わたしたちにオゾンO3を酸素O2に分解するための技術はなかった。FX社から教えていただき、大学の研究者からも教えていただいた。試行錯誤の連続であった。
    技術は次のとおりである。
    オゾンを活性炭の細孔に吸い込み、銀Agと反応させることによってオゾンを酸素を還元する
    この技術を次のように開発した。
    活性炭は商社の知恵を借り、ヤシガラから作った活性炭が適切であることを調べた。銀は貴金属会社の知恵を借り、その会社で微粉末を作る技術開発をしていただいた。容器は、最初は、プラスチック成形会社にメッシュ状プラスチック製を作っていただいた。やがて貴金属会社外注会社において銀を混入した活性炭を特殊容器に溶かし発砲ウレタンフォームにしみこませる方法をとった。
    わたしたちはコーディネーターであった。貴金属会社の部長・課長とは毎週2回ほど顔を合わせて打ち合わせをした。従業員の方々とも仲良くなった。商社員とも頻繁に打ち合わせをした。
    (3)実践
    オープンイノベーションは異業種との接触によって新しい技術を実現するものであるが、実践において、次が課題になる。
    1. 新技術創造
      自社が保有しない技術を他社などに求めても、相手にも、ほとんどの場合、ぴったりした技術はない。相手も新技術の開発が必要となる場合が多い。
      相手が乗ってくれるためには、その課題が相手にとって@技術的に面白い領域であり、A費用対効果を満たすと推定される場合だけである。したがって、相談に行く前に、相手会社の技術動向を理解し、当方の希望することを整理しておく必要がある。
    2. 成果配分
      貢献度に応じた成果配分をすることは、一見、当然の考えに見えるが、成功した後で貢献度を決めることはほぼ不可能である。
      着手する前に、金額として、または比率として、決めておく。その額または率は、新規事業に占める技術の重要性を見積ることによって決める。
    3. 機密保持
      機密保持の期間、転用または販売の制限などを契約書で明確にしておく。

    5.2 ブレイクスルー思考

    (1)意味
    ブレイクスルー思考とは思考の方法である。1959年、ジェラルド・ナドラーによってワーク・デザイン法が発表された。ワークとは対象物でありデザインとはゼロベースからの創造の意味である。
    日比野省三がナドラーの研究に加わり対象が「コト」に広がった。現在、ブレイクスルーと言われる。トイレで手をすすいだ後の水切り(三菱電機)の開発などで使われた。

    (2)内容
    ブレイクスルー思考の内容を簡単な例をつけて説明する。

    1. 問題
      あなたの前にある問題は次のなかの一つである。本稿の課題は、主に下記(2)および(3)であるが、(2)(3)だけでなくブレイクスルー思考は(1)にも適用できる。
      1. システムや状況に不具合がある
        緊急性を要する問題である。少しづつ改善し、あるいは基本の設計からやり直す必要がある。
      2. もっとよくしたい
        現在の状況は順調であり、システムはうまく運用されているが、さらに良いものにしたい。
      3. まだ存在していない
        未来にむけて最適な状況をゼロから造り出したい
        例:金属部品Aと金属部品Bを溶接したい
    2. 手順
      1. 目的を明確にする
        解決しようとする問題の目的は直接的なものから究極的なものまで数多くあるだろう。与えられたままの問題に取り掛かるのではなく、まず目的をあげる。
        例:上司から言われた
          接合したアッセンブリー品を機械に組み込む
          自分の仕事だから
          ストッパーとして使うから
      2. 目的を段階や系列に並べる
        あげられた目的は、段階や系列があると考え、その下位から上位に並べる
        例:次のようになる
      3. 選ばれた着眼目的を達成する理想案(理想システム)を数多く出す
        例:次のようになる
        目 的 着眼目的 理想案(理想システム)
        正確な位置で止める
        ストッパーとして使う





        一体物で挽く。接着剤で接合する。部品Aを直接機械に取り付ける。(機械式でなく)電気センサーにする。
        機械に組み込む
        自分の仕事だから
        上司から言われた

      4. 現実案を作る
        目的を達する案のなかで、費用などを考慮し、現実案を決める
        例:(当初の溶接ではなく)部品Aを機械にビス止めする
      5. 実施する
        実施し、さらに上位目的にあうための継続的改善をする

    以上

    参考文献
    1. 1左近祥夫「日本人が新規事業を成功する教科書」スターティアラボ2019年刊 p.13
    2. 2実践クオリティシステムズ2018年度中小企業診断士理論政策更新研修テキスト p.20
    3. 32017年度中小企業白書に同じ趣旨のアンケート調査がある(回答数3,700程度)。わたしたちの調査とほぼ同じ結果であることから、わたしたちの調査が偏っていないことが確認される。
    4. 4池田香代子編集「世界がもし100人の村だったら完結編」マガジンハウス2008年刊
    5. 5たとえばアラン・ピーズ著藤井留美訳「話を聞かない男、地図が読めない女」主婦の友社2000年刊



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