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【連載:世界一の品質を取り戻す50】

検証・日本の品質力
今再び注目される石炭火力発電システム
−進化著しい最新システムの動向とそのメリット−
山本 行雄  
(ジャーナリスト・前日刊工業新聞論説委員)  
 

「2030年代に原子力発電所の稼動ゼロを目指す」とした政府の革新的エネルギー環境戦略が大きな国民の議論を呼んでいる。現在わが国には原子力発電炉が54基存在している(うち福島第原発4基は廃炉)。実質50基(現在稼働中は大飯原発の2基のみ)の扱いを今後どうするのか。今回の衆議院議員総選挙の大きな争点にもなった。選挙中「原発即ゼロ化」「卒原発」「脱原発」「原発フェードアウト」「続原発」など言葉遊びが踊ったが、おしなべて正面から具体策をもって論じられることはなかった。つまり現在建設途中の大間(青森県)、東通(増設)、島根の各原発などはどうするか、福島第一原発の安全・確実も含めた廃炉技術の確立、使用済み核燃料の最終処理(どんな方法でどこへ)、インフラ輸出の一環としての原発システム輸出の問題など課題は山積みだ。
国民の80%近くが「原発に依存しないエネルギー社会」を望んでいるという調査結果もあるが、ピーク時29%あった原発依存から何に代替エネルギーを求めるか。一番に注目されるのが再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱、バイオマス等)だが、その普及拡大には時間とコストがかかる。2012年7月、わが国もフィード・イン・タリフ(電力固定買取制度)がスタートしたが、今後ますます国民負担(電力料金上乗せ)が増大する計画になっている。事業体にとって負担があまりに過大と判断されれば、海外脱出(産業の空洞化、雇用の喪失)も起こりかねない事態が想定される。将来のエネルギー政策で今問われているのは、脱原発イコール再生可能エネルギー促進の二元論ではなく、既存エネルギー源の最高を含めた多元論で語られるべきだ。その一助にしていただきたいのが、石炭火力発電システムの最新技術である。
石炭火力発電というと、ばい煙、CO2排出と公害のイメージとあいまって、古い技術というイメージが強いが、わが国の環境技術を盛り込んだ最新鋭の石炭火力発電システムが続々と誕生している。取り巻く環境の変化を含めた石炭火力発電システムの現状をリポートしてみたい。

1.日本にまだ112年分の石炭が眠っている

石炭は炭化度が高い順に無煙炭、瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭に分類されている。これ以外に極めて質の悪いものとして亜炭、植物が湿地帯に堆積してできた泥炭などがある。こうした分類法は日本独自のもので国際的に揮発分含有率を基に各炭質に分類している。
また石炭は用途によって原料炭と一般炭に分類もされる。原料炭は練炭、カーバイド、製鉄用コークスや高炉ガスなどの原料として用いられ、一般炭は発電用や加熱用ボイラーなどの燃料などとして用いられる。
無煙炭は炭素が多く、燃焼時に煙の発生が少ないが、着火性に劣る。またコークスを製造するためには粘結性が必要になる。このため無煙炭および粘結性の強い瀝青炭は原料炭として、それ以外(発熱量によって分ける)の瀝青炭および亜瀝青炭は一般炭として使用される。なお褐炭は全重量の半分以上を水分が占め、発熱量が低いことから、輸出効率が悪く、海外では産炭地の近くでは利用されるケースもあるが、わが国では発電用燃料として利用されてこなかった。
一方、わが国の採炭事情を見ると1960年代初頭までは、石炭はエネルギーの中心であったが、中東に大型の油田が次々と発見され、大量に安い原油が流入してきたことから、産炭地は次々と閉山に追い込まれた。日本の高度成長はこの安価な原油のおかげという側面もある。
オイルの副産物に天然ガスがある。オイルの大量使用と並行して天然ガスの発電用燃料としての活用が急拡大していった。それを可能にしたのが、天然ガスの液化(LNG化)技術である。それによって高エネルギーの大量輸送が可能になったのだ。現在で火力発電といえば大半はLNGを燃料にしている。
LNG価格は原油価格にほぼ連動するという性格を持つ。数度のオイルショックと新興国の原油大量使用に伴って現在では原油価格は高止まりしている。加えてわが国はエネルギーの安定確保の観点から高価格で長期契約を結んでLNGを産油国から購入せざるを得なくなっている。逆にこぞって産油国は日本の弱みに付け込んで高価格LNGを押し付けている傾向がある。これを「ジャパンプレミアム」という。
3.11大震災による原発停止以降、LNG火力発電に頼らざるを得なくなり、LNG購入費が急拡大、わが国は輸入額が増え、2011年は前年比38%増の4兆8000億円に達し、31年ぶりに貿易収支が赤字に転落した。日本は世界のLNG産出量の(年2億4000万トン)の33%を輸入する最大の輸入国で原発停止以降ジャパンプレミアム度が高まり需給で価格が決まる欧米に比較して最大6倍以上の高価格で購入せざるを得なくなっている。加えて最近では米国でシェールガス革命が起こり、連れてLNG国際価格は下降傾向にあるが、まだ日本は高価格LNGに頼らざるを得ず、その差は8倍以上とも言われている。
そこで再び安定エネルギー源としての石炭に注目が集まっている。その理由として挙げられるのが豊富な採掘埋蔵量だ。原油・天然ガスの2倍以上といわれている。石炭のメリットは(1)採炭地が広く世界に分布している、(2)埋蔵量が豊富、(3)コストが安い(LNGの3分の1程度)−点にある。
わが国の石炭事情を見ると、主力であった瀝青炭は石狩炭田(北海道)、筑豊炭田に代表されるようにほぼ採掘しつくされた感があり、海底炭田はまだ若干残っているが、コスト見合いから全てが閉山されている。
しかし、ここへきて従来“価値なし”とされてきた褐炭に注目が集まっている。質が悪く(水分が多い)燃料として活用するにはコストがかかり過ぎるため見向きもされなかった褐炭が技術革新によって再評価が始まっている。わが国の褐炭埋蔵量が石炭全体の約8%で、112年分以上が未利用である。瀝青炭は深度地下や海底炭田から掘り出さなければならないのに対し、美唄炭田(北海道)のように露天掘りが可能なものがある。
新日鉄住金エンジニアリングが開発した新技術は褐炭を前処理して微粉化、ガス化し、タービン燃料として高エネルギーを得るというシステム。LNG用タービンに対し5%のコスト削減、8%のCO2(2酸化炭素)削減、その他の有害物質もきわめて低く抑えられている。国内産褐炭を利用することで良品質輸入炭に比較して20分の1、従来の石炭火力発電に比較して20〜30%の発電単価削減効果があると推定されている。一方現在同時に進められている技術に、火力発電から排出されるCO2の地下貯溜技術。3年後本格稼動を目指してプロジェクト進行中である。
褐炭層にはまたメタンガスも多く存在するがCO2を注入することによってこれを取り出す技術も確立している。同時に褐炭を処理してガス化した燃料はLNGとしても転用できるようになっている。石狩炭田には褐炭を含めて約900億立方メートル(75年分)が採掘可能だが、その炭層にCO2を注入することでメタンガスを取り出す方法を開始している(メタンガス1立方メートル=11円)。よって火力発電所から出たCO2を炭田メタン層に注入してメタンガスを取り出す循環システムが確立されれば、CO2ゼロの環境システムが可能になる。
利用不可とみなされてきた低品質炭に注目し技術革新によってエネルギーリノベーションに取り組んでいる国に独がある。日本のライバルとして競争が激化している。

2.次世代石炭火力発電システムの技術動向

わが国の発電量の約25%は石炭による火力発電システムによって賄われている。その大半が微粉炭火力発電が担っている。発電効率および環境性能でわが国の微粉炭火力発電技術は世界トップレベルといっても過言ではない。
微粉炭火力発電システムは石炭を空気搬送を可能にするとともに燃焼効率を高めるため、径40ミクロン程度の微粉炭を製造する。この微粉炭と空気をバーナーからボイラーに噴出させ、燃焼する。この熱で蒸気を発生させタービンを回し発電機で発電させるシステムになっている。ボイラーでは可燃分の99%以上が燃焼する。燃焼後の排ガスは下流の排煙処理装置(脱硝、煤煙、脱硫の各装置)で除去され大気に放出される。蒸気タービンのみを用いた発電を汽力発電というが、そ、の発展の歴史は発電端効率アップへの挑戦の歴史でもあった。発電端効率は1950年代半ばまで24%程度であったが、1950年代から急激に上昇し、現時点では43%に達している。効率を高めるためにはいかに臨界圧(SC)の高いボイラーを開発するかにかかっているが、現在では主蒸気圧力25MPa、主蒸気温度の600度のボイラーが開発・稼動している。そして次世代の微粉炭火力発電として主蒸気圧力35MPa、主蒸気圧力700度のボイラーで発電端効率48%を目指し、2008年から9年計画で材料開発を中心に技術開発が進められている。当然のことながら並行的に温室効果ガス対策であるCO2削減にも取り組み世界最高水準維持を守っている。
その中心課題となる高温・高圧に耐えられるボイラーの構造材料の開発だが、大型化の要求にもかなう鋼材として高クロムフェライト鋼が活用されている。発電端効率から所内の使用動力を差し引いた正味効率を送電端効率(現在42%程度)を46%に引き上げる努力も鋭意進められている。この計画を「先進超々臨界圧火力発電実用化要素技術開発プロジェクト」(経済産業省所管)といい、前半の5年間で材料の試作開発を、後半4年間で回転試験、実缶試験を実施する予定。全体の研究開発課題としては耐熱材料、システム、構造機器、構造加工、保守管理の5分野。推進するのは「A-USC開発推進委員会」。構成は経産省のほか、IHI、ABB日本ベーレー、岡野バルブ製造、住友金属工業、東亜バルブエンジニアリング、東芝、バブコック日立、日立製作所、富士電機、三菱重工業、電力中央研究所、物質・材料研究機構などのメンバーからなっている。
エネルギーセキュリティ(安価・安定確保)、CO2削減から期待されるのが前項で紹介した石炭ガス化火力発電システムであるが、さらにそのうえに期待されているのが石炭ガス化複合発電(IGCC)システムである。
IGCCとは、精製した石炭ガスを燃料としてガスタービン(GT)を駆動するとともに、ガスタービンの排ガスやガス火炉の熱交換器から回収した熱で蒸気タービン(ST)を駆動させて発電するシステムで、最新鋭のIGCC商用プラントで、1500度C級ガスタービン適用で送電端効率46〜48%達成を実現させている。
将来、1700度Cガスタービンの開発まで持って生きたい考え。
そのほか未来型火力発電システムとして、石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)システムがある。ロードマップを策定、中国電力、電源開発共同出資の大崎クールジェン(株)が今年度から実証研究を開始している。

3.インフラ輸出の強力な武器に石炭火力発電システムを

現在わが国の平均発電費(1kWh当たり)は原子力8.9円、石炭9.5円、LNG10.7円、石油22円などと試算されている。しかし原子力には廃炉、汚染費、使用済み核燃料最終処理費、高騰する保険費などが入っていない。一方褐炭活用の火力発電が進めば石炭発電は7円程度に圧縮される。
原子力発電政策でよく比較されるのが仏(人口6500万人)と独(人口8500万人)だ。仏は58基ある原子炉全てを稼動させており(老朽化により安全性に問題はあるが)、原発依存率74%にある(再生エネ15%、火力10.8%)。現在、9基(老朽化で8基停止)の原子炉を持つ独は10年後(2022年)ゼロの政策を決定、その代わり再生エネ現在20%強を2020年35%、2050年50%計画を打ち出している。
しかし、仏は周辺国に売電しており、一方の独は仏などから買っている関係もあり、国民負担(標準1世帯当たり1ヶ月)は仏4400円、独1万7500円となっている。独はさらに次年度、月800円の負担増は避けられないとしている。その代わり独は現在一番シェアの高い褐炭利用の火力発電(24%)に注力する計画を打ち出している。一方、仏も原発依存低減の声も高まっており、より安全度の高い「AP1000システム」等に切り替え、依存度50%以下に下げる方針。
わが国も2012年7月FIT(電力固定買い取り)制度もスタート。再生可能エネ普及促進の観点から1kWh=42円(国際価格20円で2倍強)で始動したが、翌月から1家庭当たり77円(再生エネ普及のための賦課金)の負担増となり、現在、標準家庭1ヶ月電力料金7600円と言われる負担は再生エネ普及増大につれて、このままだと独同様、加速度的に負担増を強いられることになる。
国民の安全・安心、エネルギー安全保障、サスティナビリティの観点から再生可能エネルギーのシフト増大は自然の流れではあるが、過大な国民・産業負担であっては、空洞化、雇用流出、技術流出、国力低下につながりかねない。その時々のエネルギーのベストミックス、発送電分離による競争によるコスト低減、スマートグリットによるエネルギー効率利用の促進など原力の構造改革が不可欠となっている。
このほど、三菱重工と日立製作所両社の火力発電事業部門を経営統合し新社を設立することで合意した。先行するシーメンス(独)、ゼネラルエレクトリック(GE=米)を追撃する。
ベース電力にLNG火力に代えて石炭火力を据えることも再考の余地がある。そして高効率・安定電力としての最新鋭石炭火力発電を利用しない手はない。幸い途上国、新興国とも、この石炭火力発電に頼っている国はまだ多い。それらの国々が今、代替期を迎えている。日本の革新的石炭火力発電システムを望む声が高まっている。世界の認識はバックアップ発電としての火力発電の必要性は共通している。日本が世界に向けてのインフラ輸出の強力なツール(武器)に石炭火力発電を位置づけたらどうか。


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