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【連載:MOTリーダーのドラッカー「マネジメント」入門 (17)】

マネージャーの評価表
〜リーダーは集中すべきポイントをはずしてはならない〜

経営・情報システムアドバイザー
森岡 謙仁  
(アーステミア有限会社 代表取締役)  
 
日頃のマネジメントにムリ、ムダ、ムラがあっては、部署の成果を出すことは難しい。MOTリーダーは、自分のマネジメントが有効に働いているかを、自己チェックすることを学ぶ必要がある。ドラッカーの説くマネジメントの基本姿勢は、セルフマネジメントである。人から強要されて行うものではない。常に自発的であり自主的な意思から生まれるべきものである。それでは、マネージャーとして自己チェックするにはいかなるポイントがあるのであろうか。

■マネジメントには力点がある

MOTリーダーが行うマネジメントは、経営資源(人、モノ、金、情報、技術など)を有効に活用し、部署の成果を出すことが目的である。これらを意識して行うところにマネジメントの意味がある。自己流で場当たり的に対処しても成果があがる保証はない。継続的に部下への働きかけをすることが大切である。ドラッカーは、自らのマネジメントを評価する枠組みを説いている。次頁図を見て欲しい。マネージャーの評価表として4つの分野(投資、人事、イノベーョン、戦略)について、目標を設定し、それぞれの期待値と実績値を比較することを推奨している。(注1)人事にばかり気をとられたり、投資の意思決定をしたもののその効果を測定しないということは、マネジメントにはあってはならないのである。

■投資の分野

MOTリーダーは、研究設備や設計設備、製造設備、あるいは特許権などの知的財産などについての会社が行う投資判断に関わることがある。それは自らが責任を持つ部署やチームに限らない場合さえある。どのような投資についても、投資判断を行う場面では、期待する利益や経営成果に対する貢献を描いているはずである。実際に投資した設備等が稼動した後、6ヶ月や1年後に実際に得られた利益や経営に対する貢献度は、どうであったか。この期待値と実際の値を比較することは、マネージャーの仕事ぶり(performance)を評価する重要な視点である。例えば、測定指標には以下のものがある。(1)投資利益の期待値と実績値の対比、(2)投資利益率(ROI;Return On Investment)、例えば、特許取得による期待利益÷そのための投資額、新規生産設備による期待利益÷そのための投資額、IT投資による期待利益÷そのための投資額など、(3)新製品開発のための投資について、プロジェクトの回収期間(プロジェクト投資額÷期待利益)などが代表的な測定指標である。 ここで、期待利益とは、当該投資で増加した利益額(売上総利益、営業利益、当期利益の内、当該投資に拠ると見なされる利益額)を用いることが一般に行われている。

■人事の分野

またドラッカーは、「経営管理者や専門職の育成と配置が、組織をコントロールするための究極の手段であるということについては、誰もが同意する」(注2)と言う。確かに、人事ほど部署の成果を決定する要因は無いだろう。MOTリーダーは、「この仕事には、彼の技術が必要だ」といった意見によって、会社の人事を決定づけることがある。その時、彼なる人物が期待した働きをするかどうかによって、組織の成果が左右される。MOTリーダーが、こういった人事に関わる意思決定に直接的に関与する場合は、期待していたことが実現できたかどうかを、一定期間後に比較する必要がある。ただ黙っていては有能な部下は育たない。部下が育たないと嘆く暇があったら、部下の成長に積極的に手を貸すべきである。部署の成果は、部下の有能さに左右されるといっても過言ではない。部下を育てることが出来たか、そうでなかったかという視点においても、MOTリーダーは、自らの仕事ぶりを評価する必要がある。ある人物の人事異動から6ヶ月〜1年経過したときに、上記の測定値が良い結果を示したとすれば、一般にその人事は適切であったと評価できる。 人事の分野の測定指標には以下のものがある。(1)何人のリーダーを育成できたか、(2)期待した成果が上がったメンバーの配置の割合、(3)技術者などの専門家を何人、育成することができたか、(4)技術者などの専門家の配置は期待した成果に結びついたか、(5)業務上必要とされる資格の保有者は何人が理想なのか、などが測定指標として有効である。

■イノベーョンベーションの分野

ここでイノベーション(改革)とは、製品開発、新事業、新製品、新サービスによる経営成果を指す。市場への新製品投入のタイミングを間違えば、業績に大きく影響を与えてしまう。イノベーョンの分野に対して、MOTリーダーが関係する場合は少なくない。これらにかけた働きの成果をみることは大切である。新製品の開発に着手したとき、期待していた成果が必ずあったはずである。これを明文化しておき、一定期間(1年〜5年など)後の結果(実績値)と比較することで、当該プロジェクトのリーダーの仕事ぶりを測定し評価することがある程度可能である。製品開発の分野であれば、新製品の市場占有率は定量的な評価指標の例としてあげられる。顧客満足度のような定性的なデータであっても、5段階のアンケート形式をとることで、旧来製品との機能や使用の満足度の変化は測定可能である。例えば、測定指標には以下のものがある。(1)新技術の開発数、(2)新製品による新事業の開発数、(3)製品の改善による顧客満足度、(4)イノベーションに期待したことと達成された割合、(5)新サービスの開発数などである。これらについて、良い結果が出たとすれば、イノベーションに対するリーダーの仕事ぶりは評価できる。ドラッカーは、「最も優秀なマネジメントでさえ、イノベーションの打率はせいぜい三割三分である。」(注3)といっている。失敗を恐れて新しい試みをしなくなることは、イノベーションから見捨てられることを意味している。部下に新しい試みを求めても、上司であるMOTリーダーが、失敗を認めない態度でいれば、部下は萎縮するのは明らかである。このような職場からは、イノベーションはなかなか起こってこない。

■戦略の分野

ドラッカーは、マネージャーの仕事ぶりを彼らが策定した戦略と照らして測定すべきだといっている。(注4)戦略は組織の目的を実現するための基本方針である。マネージャーは、自身が所属する(任せられた)部署の目標を実現するために、経営資源の使い方を決める必要がある。組織の成果は、リーダーの経営資源の運用の巧拙できまるため、期待した戦略が適切であったかどうか、目標の設定は適切であったかどうか、適切であったならばその結果は期待したものであったかどうかを測定することは、リーダーの責務である。この分野の測定指標には以下のものがある。(1)新技術の開発数に対する特許取得数の割合(2)主力製品の市場占有率、(3)技術情報管理システムのユーザー満足度、(4)業務プロセスの生産性などを挙げることが出来る。これらの分野について、良い結果が出たとすれば、その戦略に対するリーダーの仕事ぶりは評価できる。また、戦略についての打率も3割程度であるとドラッカーは言っている。

■MOTリーダーの役割

MOTリーダーは、経営資源を無駄なく有効に運用して部署の成果を上げるために存在している。自己流のマネジメントによって、貴重な経営資源を浪費することがあってはならない。マネジメントの原点に立ち、自らのマネジメントを評価する責任がある。

<注の説明>
(注1)p92.
(注2)p93.
(注3)p95.
(注4)p96.
<参考文献>
「乱気流時代の経営」P.F.ドラッカー著、上田惇生訳、ダイヤモンド社。



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