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【連載:MOTリーダーのドラッカー「マネジメント」入門 (14)】

機能する組織の条件(2)
〜機能組織とチーム組織に学ぶ〜

経営・情報システムアドバイザー
森岡 謙仁  
(アーステミア有限会社 代表取締役)  
 
今日の組織の多くでは、個人のやる気を無くさせるばかりか、ストレスを増大させ鬱病などの精神的な病を誘発するような管理が横行していることを否定できない。このような環境で、個人が質の高い人生を営むことなど到底できないばかりか、組織も理想的だとは言えない。「組織の目的は、人の強みを生産に結びつけ、人の弱みを中和することである。」(注1)とは、ドラッカーが組織について述べた一言である。この言葉は、私たちが組織に抱く希望ではないだろうか。

■成果を生む組織は仕事に焦点を当てる

ドラッカーは、米国自動車メーカーGMの経営管理の状況を取材した(注2)ことをきっかけに、多くの企業のコンサルテーションや研究を行い、その研究成果を「現代の経営」(1954年)や「マネジメント」(1973年)にまとめた。彼の関心は、当初から一貫して「自由で機能する組織はいかなるものか」であった。そして行き着いた一つの解答として、そのためには、「組織は仕事に焦点を当てて組織化する必要がある」と述べている(注3)。組織化とは、人を主な対象とするが、モノ、金、時間、情報などの経営資源をどのように配分し機能させるかということである。これを実際に行うには、3つの方法があるという。
一つは、組織を仕事のプロセスの段階によって組織化する方法である。これはあらゆる組織化の基本となるべきものである。ビルを建てる場合を例にとれば、最初に地盤を整備し、土台をつくり、ビルの1階から最上階までつくる。この基本的なプロセスや手順に沿って人をはじめ経営資源を組織化する方法である。二つ目は、要求されるスキル(技能)やツールのある場所や位置の順番に沿って、仕事が動くように組織化する方法である。例えば、機械を製造する企業が、マーケティングによる調査結果によって新製品を開発した後、営業活動を行い受注し、その新製品を自社物流によって納品するまでの仕事をしている場合、マーケティング部、製造部、営業部、物流部などの機能の関係性に従って組織化する方法である。この組織化の方法は、機能組織とか職能組織と呼ばれる。各部署は、仕事の前後関係と同時に仕事を実行するために必要なスキルやツールを有している。
三つ目は、異なるスキルとツールを持つ人がチームとして仕事のプロセスや手順に従って動くように組織化する方法である。例えば、一戸建ての家屋をつくる場合の大工の棟梁(親方)が率いるチームのようなものである。大工の親方は、家屋の最終的な責任を持つリーダーであるが、実際の仕事は、左官屋さん、クロスや内装屋さん、電気屋さん、サッシ屋さんなどの職人達が、一戸建てを完成させる仕事のプロセスと手順に従って動くように組織化されている。これをチーム組織という。

■機能(職能)組織の特徴

最初に機能組織をとりあげる。この組織は、「仕事のプロセスやスキルの順番に沿って仕事が動く。人は動かず仕事が動く。」という基本的な特徴を持つ。ドラッカーもいうように、20世紀初頭、アンリ・フェヨールによって設計されたといわれている。右の図を見て欲しい。例えば、一般的な製造業の組織に見られるもので、営業部、製造部、技術部などの縦割り組織であり、既存製品の場合は、営業から製造部へと仕事が移動する。新製品の場合は、研究開発部や技術部から製造部門に仕事が移動することで、新製品として完成するという仕事の順番に沿って人が組織される。
このような組織を仕事の段階や働きに注目して機能組織といったり、仕事のスキルに着目して職能組織というが、しばしばその姿がピラミッドを連想させることからピラミッド型組織ともいわれる。この組織の長所を挙げると、(1)自分で組織を覚える場合も人に説明する場合も、この組織は分かりやすいといえる、(2)組織のメンバーは、自分の所属や拠点(営業部や製造部など)を持つ、(3)誰でも自分の仕事を理解している、(4)安定している、(5)上手く行っているときは心理的な圧迫も少ない、とドラッカーはいう。
次に短所として以下を挙げる。(1)組織のメンバーは、営業は営業だけ、製造は製造だけのことを考えていてもなんとか仕事が出来てしまうので、組織全体の目的を理解し各人の仕事をそれに結びつけるのが難しい、(2)営業は製造しないし、製造も営業しないなど、硬直的であり、適応性に欠ける、(3)明日の組織を担う者は、営業だけではなく製造も技術も理解しておくべきだが、そのような人を育て、訓練し、テストするにも適していない、(4)組織全体として新しいアイデアや方法を進んで取り入れる気風に欠けやすい、(5)職能別グループ(営業部と製造部など)間で摩擦が生じやすく、他の職能を犠牲にしようとする、(6)部分優先の考え方が身につきやすいために全体を見通すというマネジメントに適さない人間をつくりやすい、(7)現在行っていることを少しだけ良くすることに力を注ぎやすい、などが挙げられる。これらは総じて縦割組織の弊害といわれている。
さらにこの組織は、上手くいっているときは経済性に優れているが、上手く行かなくなると、調査役、委員会、会議、専門家などの複雑な機能を必要になり、組織が複雑になり、複雑な管理ツールを必要とするために効率が落ち経済性も悪化する、とドラッカーは指摘する。(注4)

■チーム組織の特徴

次にチーム組織をとりあげる。この組織は、病院における患者の治癒を目的に組織された医療専門家である医師、看護師、放射線技術者などからなるチームが典型的であり、氷河期時代の狩猟にも用いられたとドラッカーはいう。新製品開発を目的にしたプロジェクトチームやスポーツの世界では、サッカー、野球、ラグビーなどのチームがある。これらをチーム組織というが、その主な特徴としては、(1)各種のスキルとツールを持つ者が特定の仕事を行うためにチームとして集まる、(2)チームには、本来、上司も部下もいない、(3)リーダーは、多くの場合、交代しない。成果はチーム全体の責任である、などが挙げられる。そして、ドラッカーはこの組織の長所として、(1)チームのメンバーは、全員、全体の仕事が何か、自分の責任が何かを知っている、(2)新しいアイデアや方法を取り入れやすく、事態の変化にも適応できる、(3)経営層、イノベーション(改革)のための組織には最適である、と指摘している。また、短所としては、(1)メンバー数は、7人くらいが限界、それを超えると支障が出やすい、(2)チームのメンバーは、次のチームに自分が選ばれるか不安を感じたり、役割と責任の範囲について明快性や安定性に欠け、(3)内部の調整に時間を費やすなど経済性が悪いことをドラッカーは指摘している。
チーム組織は階層があまりなく、人数も小規模であるということから、ピラミッド型組織に対比してフラット型組織ともいわれる。機能組織を有効に動かすための補完的な組織であると、ドラッカーはいっている。

■成果を出す組織構造に向けて

機能組織もチーム組織も長所と短所を持っていることから、どちらかが優れているということではない。以下のようにドラッカーの見解をまとめることができる。
一般的な製造業の組織については、第一に、組織構造は、戦略に従い課題を解決する意図を持って組織する、第二に、基本的には安定した機能組織として組織する、第三に、経営層は、チーム組織とする、第四に、イノベーションチームは、経営層が直轄するように組織する、第五に、特定の製品の開発や改善のため、あるいは顧客向けにチーム組織をつくる、第六に、緊急のテーマや課題の解決には経営層が直轄するプロジェクトチームを組織することが、成果を出す組織化の基本であるといえよう。
留意点としては、企業の規模が小さい場合は、いくつかのチーム組織を基本に考えても良い。また、機能組織の規模が大きくなる場合には、事業部制などの連邦分権組織を取り入れると効果的であることをドラッカーは説いている。

■MOTリーダーの役割

企業組織のある部署をあずかるMOTリーダーにつても同様のことがいえる。製造ラインに属する場合であれば、機能組織のリーダーや責任者である。技術や設計、生産技術に関するスタッフであれば、部下がそれぞれ専門分野を持っていることが多いことからチーム組織を形成している場合が多い。「部署の目的を実現するために如何なる組織化を行うのが効果的か」を自分に問うことが大切である。部署目標の達成については、機能組織やチーム組織の長所を活かし、組み合わせて組織化することがMOTリーダーの仕事である。働く者の組織に対する希望を裏切ってはならない。
<注の説明>
(注1)(1)p347.
(注2)(2)に詳しい。
(注3)(3)p254.
(注4)(3)pp256-262.
<参考文献>
(1)「マネジメント(上)」1973年。P.F.ドラッカー著、上田惇生訳、ダイヤモンド社。
(2)「企業とは何か」1946年。
(3)「マネジメント(中)」1973年。



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