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【連載:MOTリーダーのドラッカー「マネジメント」入門 (9)】

リーダーでいるための7つの習慣
〜自分の成長を止めてはならない〜

経営・情報システムアドバイザー
森岡 謙仁  
(アーステミア有限会社 代表取締役)  
 
座右の銘(生きる指針や信念の拠りどころにしている言葉)は、誰でも持っている。例えば、「心・技・体」などもそれである。日本の歴史の中には古くからこのような言葉がある人の人生の経験とともに生まれ、現代の私たちにも影響を与えている。マネジメントの父と称されるドラッカーについても例外ではない。

■7つの習慣とは?

歴史上の偉人や世の中の成功者といわれている人々と同じように、ドラッカーも自らが体験したことから教訓を得て、それを後の人生において行動習慣としてきた。次頁図を見て欲しい。彼の場合、小学生の時に始まり40代に至るまでの7つの経験がそれにあたる。(注1)96歳の目前まで生きた彼の生涯において、40冊近い著書を刊行した。そのうち15冊がマネジメントに関するものだという。(注2)これらの著作の多数は40代以降のものであり、ドラッカーの7つの経験が習慣化され、著作に影響を与えたであろうことは容易に理解される。

■その1:生涯を通じて完璧を求める。

ドラッカーが父親のアドバイスに反して、ハンブルク大学に籍をおき勤労学生になったのが17歳である。そして翌年、ヴェルディという有名な音楽家のオペラであるファルスタッフを観劇する機会を得た。ファルスタッフというオペラは人間模様(主人公の老騎士が裕福な夫人にラブレターを書いたことから始まる喜劇)を描いたオペラとして有名である。少年のときから人間を観察することに興味があったドラッカーはこのオペラに感激した。また、小学校では本の虫といわれるほどの読書好きであったこともあり、この作曲家のことを調べたところ、80歳の高齢にも関わらず、常に完璧な作品を求めて作曲し続ける生き方を知り、さらに感動するのである。

■その2:「神々が見ている」ことを意識して手を抜かない。

時期を同じくして、ドラッカーは読書する中で古代ギリシャの偉大な彫刻家の物語を知る。この彫刻家に彫像の作成を頼んだアテネの会計担当者は、完成した彫像の代金を請求してきたフェイディアスに対して、人からは見えない背中の部分の支払いを拒否した。
これに対して、「神々が見ている」といって抵抗したのがフェイディアスだったという内容である。ドラッカーにとっては、会計担当者に対してこのように抵抗したフェイディアスが、請求した満額を手にしたか、そうでなかったかが問題ではなかった。仕事をする姿勢として、人が見ているかどうかではなく、「神々が見ている」から完璧を求めて、仕事で手を抜いてはいけないのだ、ということを教訓として得るのであった。
一般には、誰も見ていないからといって手を抜きがちである。リーダーが手を抜いているようでは、部下がそれを真似するだろうから、部課やチームの結果が良いはずがない。

■その3:3〜4年でテーマを変えて研究する。

ドラッカーは20歳の誕生日にフランクフルト最大の新聞社に職を得る。そこでの仕事は、金融と外交分野の夕刊紙の記者であり、朝6時から午後2時くらいに仕事は終わるという勤務だった。彼は有能な記者であろうとして、勤務が終わると独学に励むことになる。
ところで先日、ある上場企業の執行役員が、講演会で述べていたことだが「2〜3年ごとに新しいテーマについて勉強するということを繰り返して、財務、法律、経営のことを学んだ結果、自分の仕事に良い影響があった。それを会社が評価してくれたので、今日の自分がいる」というようなことを言っていた。年数には少し違いがあるものの仕事で良い結果を出し続ける人は、ドラッカーがそうであったように、勉強のスタイルに共通点があることはたいへん興味深いことである。
技術者だから、経営や財務、法律のことなどを勉強してもムダだと即断するのは禁物である。そもそも知識労働者にとって、会社がすぐに評価するかしないかは、二の次のはずだ。

■その4:上司と定期的に面談する。

ドラッカーは、新聞社でその時の上司であった編集長から、定期的に仕事のことについて、指導を受けた。その定期的というのは、毎週であり、半年に1回であったという。
優れた仕事、努力した仕事、良かった結果、悪かった結果について、徹底的に議論し、時には激しく批判されたという。このことは、ドラッカーに多大な影響を与えることになる。マネジメントの父と言わしめた「現代の経営」(1954年)、「マネジメント」(1973年)にある「自己目標管理」(注3)の概念などにも、この編集長から仕事を通じて定期的に厳しく指導された体験が少なからず影響を与えている。
一方、現実に目を向けると、MOTリーダーが定期的に面談すべき人間は、最低でも二人いることに気づく。一人は、部下であり、もう一人は直属の上司である。部下に対しては、聞き役になることが大切であり、上司に対する報告は、口頭か書面か、上司の好むスタイルに合わせて、前週の報告と新しい週の仕事に対して助言を求めることが大切である。

■その5:職場やチームが求めている仕事に焦点を合わせる

青年時代の一時期、ドラッカーは保険会社で証券アナリストとして働いた後に、銀行に就職することになった。新しい職場でも一生懸命に働いていたが、あるとき、上司の一人からひどく叱られてしまう。「前職の証券アナリストのままでいる」というわけだ。新しい職場が何を求めているのか、真剣に考えて行動していなかった自分を大いに反省し、その後、仕事のやり方もすっかり変えて対応したという経験である。
ある研究開発の職場から生産技術の職場に配属されたK氏。前職では、1ヶ月に1度、研究報告書を書けばよかったので、新しい生産技術の職場でも同じように考えていた。無口な性格もあって、上司から声を掛けられても普段はあまり話をしないでいた。1ヶ月が経って、研究報告書に似た報告書を書いたところ、ここぞとばかり批判されてしまった。「報告書に2週間前のことや3週間前のことを丁寧に書くのではなく、日々、随時、まずは口頭でも良いから報告して欲しい。」といわれたというのだ。
K氏は、新しい職場において自分に求められていることは何かを理解しないで、また、解らないまま、1ヶ月間を過ごしてしまったのである。K氏の上司にも問題はある。何故、もっと早く部下のK氏に、生産技術の職場の仕事で要求される大事なことを伝えなかったのかということである。

■その6:期待と結果を比較(フィードバック)する。

ドラッカーは、3〜4年ごとにテーマを変えて研究するうちに、16世紀のヨーロッパの歴史に登場するイエズス会(カトリックの修道会)とカルヴァン派(宗教改革者カルヴァンの教えを継いだ会派の一つ)の活動に興味を持つ。研究の結果、この2つの社会的な機関は、共通のやり方で発展したということを知る。それは、重要な行動や意思決定をするときには、それらの期待する成果を書きとめておき、一定の期間後に出た結果と比較する、という方法であった。
一般にこのような方法は、フィードバックとして知られている手法である。部下の働きぶりを毎週、少しの時間でも面談をする。前週においての仕事ぶりと結果において、良かったこと、悪かったことについて、部下の事情もきちんと聞き、上手くいった原因と失敗した原因を部下と一緒に確認する。その後、新しい週の仕事の目標やどのようにするのかなどの具体的な仕事の仕方を部下に考えさせるようにする。知識労働者には、仕事のやり方を押しつけてはいけない。当事者に考えさせて自主的に目標を決めさせそれを書きとめておく。その上で、責任を持たせるために必要な情報を提供し、結果の情報も部下にフィードバックするのだ。

■その7:「何によって覚えられたいか。」を自分に問う。

ドラッカーが13歳のとき、宗教の先生から「君は何によって覚えられたいかね」といわれた。その後、60年ぶりに同窓会を開いたとき、久しぶりに会った友人たちは皆このことを覚えていたという。この体験と前後するが、ドラッカーは、40歳のとき父の友人である経済学者のシュンペーターを訪問する。このとき、父とシュンペーターとの会話の中で、「人は何をもって自分の名を残したいかを自問しなければならない」「その自問に対する答えは、年をとるごとに変わっていかなければならない」「本当に名を残すに値することは、他の人を素晴らしい人に変えることである」(注4)という教訓を得る。
この問いを自問することで、仕事の姿勢だけでなく、生きる姿勢すら変わってしまう。そして、その結果、自分自身も成長していくのだということを、ドラッカーは60年ぶりの同窓会で再会したメンバーを見てあらためて実感するのであった。

■MOTリーダーの心得

MOTリーダーであれば、本業の最新情報だけで充分だとして、他の専門分野についての関心などいらないというわけにはいかない。上司として部下から信頼されるためには、自分を成長させる努力に終わりがあってはならない。

<注の説明>
(注1) (1)第一章。
(注2) Introduction.
(注3) テクノビジョン(2009.03)「PDCAを経営成果に結び付ける『もうひとつの技術』〜自己目標管理で技術者の能力を120%引き出す〜」に詳しい。
(注4) (1)第一章。
※参考文献
(1)「創生の時」P.ドラッカー、中内功著、上田惇生訳、ダイヤモンド社。
(2)「A Functioning Society」Peter.F.Drucker./Transaction Publishers.


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