前のページへ戻るホームへ戻るテクノビジョダイジェスト
 
【連載:MOTリーダーのドラッカー「マネジメント」入門 (6)】

チームを率いるという仕事(2)
〜職務設計が部下を伸ばし職場の成果をあげる〜

経営・情報システムアドバイザー
森岡 謙仁  
(アーステミア有限会社 代表取締役)  
 
前回はリーダーもリーダーシップもドラッカーの説いた「マネジメント」の重要な要素であることを説明した。さらに肩書きに恥じないMOTリーダーになるためには、「マネジメント」の実務的な理解を深める必要がある。
例えばチームを率いる立場にいながら、部下への必要最低限の働きかけをしないようではこまる。技術者である部下の主体性を尊重しているという主張をしても、職場とチームの成果が上がっていないならば、「マネジメント」能力があるとは言えない。

■ドラッカーの仕事観とMOTリーダー

ドラッカーが「マネジメント」を重視するのは、スペシャリスト(技術などの専門家)集団であるということだけでは、成果をあげる機能する職場を実現できないとの信念からである。スペシャリストが経営に貢献できるのは、そのスペシャリストの仕事の成果(アウトプット)が別のスペシャリストの仕事に活用されて、経営上の新たな価値や成果を生むときであると考える。(注1)学歴や肩書きがある技術者がいくらたくさん居ても、それだけでは職場の成果、経営上の成果を生み出すことはできない。あるスペシャリストの成果を説明し、別のスペシャリストに理解させ活用させるというのが、「マネジメント」であり、それを行うのがマネージャーとしてのMOTリーダーである。
MOTリーダーを志すのであれば、スペシャリストの自主性を尊重して終わるのではなく、彼らのアウトプットが職場やチームの成果に結びつくように、彼らに働きかけることが必要である。

■部下への働きかけは「目標の設定」で終わってはならない

MOTリーダーが職場やチームの成果をあげるために最初に行うべきことは、部下に働きかけることである。どのように働きかけたら効果的なのか。まさにマネージャーの5つの仕事(注2)を実践することであり、MOTリーダーの仕事である。
部下への働きかけの第一は、目標を設定することである。目標設定をする際、部下を参画させ部下の自己目標として設定することが大切であることは言うまでもないことだ。「目標を設定」しただけで終わらないのが、ドラッカー「マネジメント」である。第二に「組織化」である。この「組織化」について部下に働きかけることで、職場というチームを運営し会社の期待する成果を生みだす仕組みを組み込むのである。それではこの働きかけは、どのようにするのだろうか。

■「組織化」は、「職務設計」から始める

職場やチームの目標を実現するためには、リーダーだけでなく部下の仕事も含めて合理的に設計する必要がある。これを職務設計というが、職場やチームの目標を達成するために必要な課題や機能を分析した上で、効率を考えて仕事を再設計することでもある。
このときリーダーは職務設計について自ら範を示すことも含まれる。
ドラッカーは最適な職務設計について以下のように説いている。(注3)
  1. 本来の仕事を定義する。… 組織の目的と成果を実現するための重要な仕事を明らかにした上で文書化(ワークフローや職務規定など)する。
  2. 組織のパフォーマンスと結果について果たすべき貢献を明確にする。… ゴールと目標、その期限と実行する責任(担当)者をきめ、結果をフィードバックできる評価基準を決めておくこと。
  3. 上司と部下の関係だけでなく、同僚や他部署など横との関係性を考慮して仕事を定義する。
  4. 仕事に必要とされる情報と情報の流れにおける位置から仕事を定義する。… 自分の仕事に必要な情報は何か、自分はどんな情報を誰に提供するのかなどを明確にして、コンピュータ担当者にこのような必要な情報と活用の仕方を伝えること。
このようにして、自らがマネージャーとしての仕事を見直すなら、職務設計の能力を身につけることができると同時に、部下自身にも仕事を見直させることが可能になる。 次頁図を参考にして欲しい。

■「職務設計」はボトムアップで行う

実は職務設計はこれだけでは終わらない。大事なことがある。それは、仕事は合理的に組み立てられたとしてもそれを担う人が働きやすく設計する必要がある。そうでなければ、人は心身ともに疲れ果て、職場やチームから担い手が消えることになりかねない。人は機械ではないから、心身ともに機械のように正確な動きを合理的に実行させようとすることは、一人の天才に仕事の全てを任せることと同じように非現実的なことだと思われる。
したがって、そのような仕事に仕上げてしまう職務設計は、間違いだということになる。
職場やチームの目標を実現するというのは、現場の第一線の部下の働きぶりに左右されることは、周知のとおりである。したがって先にあげた仕事の見直し(職務設計)は、MOTリーダーが率先して行うだけでなく、第一線の部下からの仕事のアイデアを引き出し、部下自ら自主的に職務設計を行うように導くことが何よりも大切になってくるのだ。

■「職務設計は」具体的な仕事まで明確にする

一般に管理の考え方からすると「目標がきまったら部下に仕事を押し付けて、その後PDCAで回す」ということになりがちである。しかしこの発想はドラッカー「マネジメント」にはない。あくまで、具体的な仕事のやり方は、組織の価値観と基準に沿う範囲で、仕事をする本人に考えさせる(職務設計を行わせたり、参画させる)ことを重視する。
すなわち目標は何でもそうだが、それを実現する課題を明らかにし、その課題を解決するためにはどのような作業が必要なのか、どのような具体的な仕事をしなければならないのか、さらにそれはいつまでに誰が行うのか、などを関係者で申し合わせた上で、職務設計に反映させるようにする。その後は、前述したマネージャーの5つの仕事の3番目である「コミュニケーションと動機付けによるチーム意識の醸成」である。決してPDCAで回すという機械的な部下との接し方をしない。

■仕事を生産的なものにする

ドラッカーの云う職務設計は、仕事を客観的に見て(属人的でなく)行うものであり、組織の価値観に反しないかぎりにおいて、その仕事を担う人のやり方も許容するものである。MOTリーダーは、職場やチームの目標を達成して成果をあげなければならないのであるから、仕事の成果を生みだすことができる生産的なものにする必要がある。
そのためには、以下の5つが重要であるとも説く。(注4)
  1. 仕事を分析し、必要な作業と順序、インプットとアウトプットなどを明らかにする。
  2. 分析し洗い出した作業の中から、成果をあげるのに効率的なプロセスとして統合する。このとき、無駄な作業は捨てるか改善すべきである。
  3. プロセスとして組み上げる中に、方向付け、インプットやアウトプットの量や質などの基準や例外の管理手段(ツールやルール)を組み込む。
  4. 作業やプロセスで使用する生産的かつ効率的なツールを設計しそれを使用する。
  5. 以上について、プロセスの最終的なアウトプットをまず明らかにし、そこから一つずつさかのぼって、全プロセス、全作業のアウトプットを明確にするところから検討する。
職務設計する際にはこれらのことを考慮することが大事なのである。

■責任と絆としての仕事

ドラッカーは、アメとムチで部下を動機付けする方法を良しとしない。仕事をする動機は、目的や目標の実現に貢献したいという気持ち、“やりがい”を重視する。そして部下が仕事に責任をもって携わるために、上に立つものの職務設計の仕事を重視し、そのプロセスに部下をボトムアップ型で参画させ、生産的な仕事を設計するためのやり方を説いたのである。MOTリーダーと部下との“絆”は、互いが仕事の責任を全うすることによってつくられる信頼が基盤である。同じことが部下同士にもいえる。さらに、人が仕事をする社会的な側面も見落とさなかった。仕事で目立たない人の職場コミュニティへの参加である。職場やチームの仲間としての“絆”の大切さも重視する。「人は、仕事の論理と労働の力学の双方に沿ってマネジメントしなければならない」(注5)とは、実にドラッカーの仕事と人に対する洞察である。
MOTリーダーは、部下の自主性を尊重することを当然とするように、働きかけにおいては「おせっかい」であって丁度良い。


<注の説明>
(注1) (1)p233
(注2) (2)p26-27;要約すれば「マネージャーの5つの仕事;1.目標を設定する。2.組織化する。3.動機付けコミュニケーションによりチームをつくる。4.仕事ぶりと成果を評価測定する。5.自分も含めて部下を育成する。」とある。また本連載前回を参照。
(注3) (2)p47-50
(注4) (1)p251-265
(注5) (1)p231
※参考文献
(1)「マネジメント(上)」ドラッカー名著集、P.ドラッカー著、上田惇生訳、ダイヤモンド社。
(2)同上(中)


前のページへ戻るホームへ戻るテクノビジョンダイジェスト