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【連載:MOTリーダーのドラッカー「マネジメント」入門 (5)】

チームを率いるという仕事(1)
〜リーダーシップがリーダーをつくる〜

経営・情報システムアドバイザー
森岡 謙仁  
(アーステミア有限会社 代表取締役)  
 
世の中には、仕事で上に立つ人つまりリーダーになるのは、もって生まれた才能の役割が多いとする考え方と、教育と訓練によってそのような能力は育成できるという2つの考え方がある。ドラッカーの説いたリーダーおよびリーダーシップにおいては、この両者の考え方は「マネジメント」において統合されている。

■ドラッカーが定義したリーダーとは

ドラッカーは、歴代の大統領であるリンカーン、アイゼンハワー、トルーマンなどを研究し、リーダーシップはカリスマ性とは無縁のものであると分析した。スターリンやヒトラーや毛沢東などがもっていたカリスマ性は、かえってリーダーを破滅させたとまでいうのだ。幸い現代は民主的な社会であり、企業もこの精神の基に運営されている限りにおいては、破滅を招くカリスマ性によるリーダーは支持されないであろう。
ドラッカーはリーダーについて「リーダーに関する唯一の定義は、つき従う者がいるということである。」(注1)といっている。少し注釈がいるが「つき従う者」とは、強制力をもって従わせられた者ではなく、「そのリーダーを信頼するがゆえに自らの意志に基づいて従う者がいる」ということを意味しているのは当然である。
形骸化した職場に見られることだが、学歴があるという理由で役職上の上位にある者もいるが、部下の本音を聞けば信頼を得られずに「つき従う者」がいない、このような形だけのリーダーも現実にはいる。MOTリーダーはこうなってはいけない。

■リーダーは仕事を通じてつくられる

リーダーとは、「つき従う者がいる」者であるから、そのためには他者からの信頼を得なければならない。信頼とは日々の仕事の中で他者から認められ評価された結果として、積み重ねられていくべきものであり、「リーダーに相応しい日々の仕事ぶり」に裏付けられた堅実なものである。これがリーダーシップであるといえよう。
ドラッカーはこのようなリーダーシップを、第一に仕事である、第二に責任である、第三に信頼である、と説明している。(注2)

■リーダーシップとは「仕事」である

生まれながらのリーダーを日本においてあげれば戦国武将がいる。いまだに熱烈なファンが多い。戦国時代のリーダーには確かに「つき従う者」はいた。その反面、一部の忠義の家臣が美談になるくらいであることから猜疑心や裏切りも同居していたに違いない。群雄割拠していた時代は、まさに生まれながらにしてリーダーとなるために生まれてきたといわれる戦国武将のオンパレードである。しかし今は時代が違う。
ドラッカーは、次のようにリーダーシップは仕事であるという。
第一に、組織の使命と目標を見えるように明確にして他者に示す。
第二に、目標を決め優先順位や基準を決めてそれを維持する。ここで目標は「8つの目標領域」をさす。(注3)第三に、自ら目標に対して行動して範を示す。ここに生まれながらの才能は登場しない。これらを仕事として実践するというリーダーシップを示せば、リーダーになり得るというのである。

■リーダーシップとは「責任」である

人の上に立つと勘違いする人がいる。言葉遣いまで変わる人がいる。同僚だった以前に比べて使っていた言葉も人に接する態度も高圧的になったり命令口調になる人がいるものである。このような人はこれまで同僚だった部下に対して、偉そうな態度をとったり、命令口調や強制する言動をとることが、リーダーシップだと勘違いしているのである。リーダーとしての仕事振り(言動)を勘違いしてもある程度部下が従うことから、勘違いリーダーシップは増長されて職場の雰囲気を悪化させる。部下はこのような上司に気に入られようと本音と建前を平気で使い分けるようになり、部下同士の心の繋がりまでも壊すことになりかねない。
このような職場では、無責任な風潮が広まり成果が上がらなくなるのは当然であるが、そのまま放置しておけば、リーダーシップさえ放棄したことになる。だからこそ、自ら範を示すという仕事が不可欠なのである。ドラッカーは「最終的責任は私にある」というトルーマンの言葉を引用し、リーダーは部下の失敗にも責任をとることを心構えとするから、部下の力を恐れないどころか、「部下を激励し、前進させ、自らの誇りとする」(注4)といっている。

■リーダーシップとは「信頼」である

前述したように、リーダーシップとしての「仕事」を「責任」もって率先して取り組むことで、他者に信頼感を芽生えさせるであろうことは想像に難くない。リーダーと部下との相性が悪い場合や好き嫌いもある。しかし、仕事上のリーダーシップの問題は、アフターファイブや休日の人間関係ではない。あくまでチームとしての成果を出すことが前提となっている以上、リーダーシップを発揮するリーダーであるかどうかを、部下は仕事本位で観察しているのである。
また率先して範を示した行動が、期待通りに部下の信頼を得られるかどうかは、そのリーダーの動機にも影響されそうである。リーダーの言動は誠実であり真意にちがいないという確信がもてる場合に、部下の信頼が得られるのであるとドラッカーはいう。

■マネジメントからみたリーダー

チームを率いるという仕事は、チームとして成果を出すことであるから、リーダーシップがあるだけでは不十分である。自分が信頼されているだけでは十分ではない。リーダーシップを仕事だと自覚し、つき従おうとする者に対して的確に「マネジメント」する人が、リーダーになるのである。ドラッカーの「マネジメント」の範囲は広い。リーダーもリーダーシップも「マネジメント」の一面をとらえているに過ぎない。
リーダーシップを発揮することができ信頼を得て従う人を得た場合でも、それで終わってしまったのでは、リーダーとはいえない。

■リーダーはマネージャーでもある

リーダーが退いた後、そのチームが崩壊するのは、退いたリーダーが無能だったからに他ならないとは、よく言われることである。自分の後任者を育成もできずにいたリーダーが良いリーダーであるはずがないし、生まれながらの才能にあぐらをかいていたか、カリスマにすぎなかったのであろう。このようなリーダーはドラッカーも否定する。
そのためにリーダーは、「仕事を通じて部下を育てるというマネジメント」をしなければならないということになる。
マネージャーの仕事について、ドラッカーは以下の5つをあげている。下図を見て欲しい。(1)目標を定める。(2)組織化する。(3)モチベーションを上げ維持する。(4)パフォーマンスを評価する。 (5)自分も含めて部下を育成する。
間違っても部下に対して「PDCAで回せば良い」と言い放して自分だけ満足してはいけないのである。(注5)
このようなリーダーは、「マネジメント」を知らないし、部下を枠にはめようとする「管理屋」に過ぎない。リーダーとして部下をチームの成果に方向付け、自己と部下を育成するマネージャーがドラッカー「マネジメント」のいうリーダーたり得るのである。
チームの成果をあげるには、チームを率いることができなければならない。ということは、MOTリーダーたらんとする者は、「マネジメント」を実践しなければならないのである。

<注の説明>
(注1) (1)p149
(注2) (2)p147-150
(注3) 「8つの目標領域」は、(2)p130、本連載の第2回(テクノビジョン2010.05)に詳しい。
(注4) (1)p148
(注5) 連載のタイトル;「MOTリーダーの条件」第2回;(テクノビジョン2009.03)に詳しい。
※参考文献
(1)「未来企業」P.ドラッカー著、上田惇生編訳、ダイヤモンド社。
(2)「マネジメント(上)」ドラッカー名著集、P.ドラッカー著、上田惇生訳、ダイヤモンド社。


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