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【連載:世界一の品質を取り戻す19】

検証・日本の品質力
LED電球で照明革命が始まった
山本 行雄  
(ジャーナリスト・前日刊工業新聞論説委員)  
 

今年10月2日はエジソンの電球発明から130周年にあたる。そして今、白熱灯、蛍光灯からLED(発光ダイオード)照明へと、第3の照明革命が起きようとしている。関連業界では今年を“LED照明元年”と位置づけ、本格普及に拍車をかけようとしている。
現在の世界の照明市場は約7兆円と推定されている。市場を二分するのが白熱照明と蛍光灯照明。環境意識の高まりから白熱灯は、3年後以降、市場撤退が進む予定。代わって蛍光灯とLED照明の二強時代が到来する。緒戦は日本優位のLED照明分野だが、予断は許さない。
一方、照明分野だけではなく、他の用途開発も進みつつある。その代表例が薄型テレビのバックライトにLEDを採用する例。特にこの分野では日本、韓国の開発競争が激化しく、日本が先鞭をつけながら現状は韓国優位にかわっている。そこで周辺技術の開発も含めたLEDビジネスの最新動向をレポートしてみたい。

1.最大のネックは初期の導入コスト高

証明の歴史は白熱電球に始まり、蛍光灯の出現(約70年前、米ゼネラル・エレクトリック社が商品化)、途中ハロゲン電球などの特殊用途向け照明の開発があり、現在第3の照明革命、LED照明が本格普及期を迎えようとしている。そして、その先には有機EL(エレクトロ・ルミネッセンス)照明が控えている。
LEDは電流を流すと光る特殊な半導体で、初期に開発された赤色、緑色LEDはこれまで主にラジオのチューニングランプなどに使われてきた。それが一般家庭用照明の光源に使われ出したのはつい最近のことで「白色LED」が開発されて以降のこと。米粒大のダイオードが発光体となるため従来はクリスマスのもみの木を飾る装飾用発光体等に用途は限られていたが、それを複数集めて電球状にすることができるようになったため普及が進むようになった。特徴として片側にだけ光を出すため指向性が強くダウンライトやスポットライト用として美術館やショーウィンドウなどの照明としては広く使われている。光の指向性の解消にはレンズと組み合わせて光を拡散させる手法が開発され、また家庭用としては白熱電球の口金がそのまま付け替えられる電球型が登場に用途が急速に拡大した。
LED照明の最大の特徴は省エネ性。消費電力は白熱電球の7分の1から8分の1、電球型蛍光灯に比べても、3割から4割少なくてすむ。寿命も1000時間に切れてしまう白熱電球や6000時間の電球型蛍光灯に対し、LED電球は4万時間の長寿命が照明されている。
問題は初期コスト。出始めの頃は60ワット程度のもので1個1万円位していたが、今年3月、東芝ライテックが商品化した際には1個8000円。6月にシャープがこの分野に参入した価格は実売ベースで4000円、ベンチャービジネスも現在では参入してきているが、シャープの価格にターゲットを絞っている。
わが国の照明事業はパナソニック、東芝、三菱電機、日立製作所、NECの5社が電球・蛍光灯の市場を長く寡占してきたが、LED照明は白色LEDさえ手に入れば基板に取り付けカバーをかぶせて照明器具に仕上げればすむため、参入は容易。このためリサクルトナーが本業のエコリカ、生活用品のアイリスオーヤマ、プレハブ大手の大和ハウス工業など異業種が続々とLED電球やLED照明機器に参入、その他ベンチャーも仲間入りしていることから、価格低下など競争効果が見込める。
シャープが60ワット換算のLED電球1個4000円で照明事業に乗り出したのには訳がある。同社は40年以上前から太陽電池や液晶と共に研究開発を続けてきた歴史がある。後発の同社が新分野に進出するには業界にインパクトを与え、市場を喚起する必要があった。そのため白熱電球が60ワットで1個100円程度、LED電球の寿命が白熱電球の40倍だから4000円なら費用対効果で互角の興味を引くと価格設定を決めた。
LEDの最重要部品となるチップの装置特許はこの分野の先駆者である日亜化学工業が保有しているが、照明用LEDは素子の明るさを均一にする生産技術に一定のノウハウが必要となる。しかし安定した輝度を出せる素子を安定して生産できるメーカーは少ない。シャープはその生産技術を確立し、さらに品質アップに拍車をかけるため、消費者ニーズに合った価格で市場拡大、シェアアップを図る狙いを持っている。
LED電球にはまだまだ改良の余地がある。まず1個あたりの重さだ。東芝ライテック製の60ワットタイプの重量は140グラムで白熱電球の同様のものと比較すると約5倍。付け根の部分に電源回路や放熱板が組み込まれているためで、口金をしっかり止めるなど注意が必要。また用途によっては新たな工事が必要になる場合もある。
また白熱電球や電球型蛍光灯は全体が輝くのに対し、LED電球は上粉しか光らないのがほとんど。白熱電球60ワットと相当の輝度という場合も直下の測定値でいった場合のことを指している。ダウンライトのように直下を照らす場合には最適だが、反射板などを使用して部屋全体を照らすにはまだ違和感が出る。
LED電球の特徴のひとつに熱を帯びないなどというのがあるが、確かにLEDの光は熱を持たないが、電源回路からは熱が出るため、口金に近い部分は触れると暑く感じる。
今後の課題はいかに輝度を上げるか、製造技術においていかに安定したチップを製作し歩留まりを上げていくか、加えて前述したネックの部分をいかに解消していくかにかかっている。市場関係者は政府が08年に業界に要請した消費電力が大きい白熱電球の12年までの生産中止により、蛍光灯との照明二極時代到来は追い風には違いないが、一般家庭に急激に普及させていくためには現在の価格を3分の1程度に下げないと市場インパクトにはならないと予想している。

2.新規参入と市場の拡大争奪戦が始まった

これまではLED電球を導入する側もエコに敏感な企業姿勢をPRするために取り付けケースが多かったが、価格が下がりつつあることから、費用対効果で実利が見込めるため導入する企業が多くなりつつある。
電通は来年1月を目処に本社ビル全体にLED照明を採用する方針。従来型照明1万7000本をLEDに交換する大規模なもので、年間のCO2排出量を08年実績比約5%減少できるとしている。
損保業界も会員企業全体で2000年度比電力使用量18%減(10年度まで)を目標にしているが、その施策のひとつとして、会員企業に対しLED照明の積極導入を進めている。
ビデオレンタルのTSUTAYAも今後新規開店の店舗にLED照明や高性能熱反射ガラス、高断熱天井などで20%の電力消費量の減少、年46のCO2削減を図る考え。またCVSのローソンやセブン&アイグループの各種店舗にLED照明を積極的に導入していく方針を打ち出している。
こうした需要の高まりや、シャープの低価格品での参入は一挙にLED照明の高性能・低価格戦に拍車をかけることになった。前述の異業種の参入に加えて迎え撃つ照明専業メーカーも開発体制強化、設備増強に力を入れ始めている。この分野で先行していた東芝はシャープに対抗するため価格を同水準まで引き下げると共に今後3年間で100億円を投じて、複数のモジュール(複合部品)を量産できる体制を整える。そしてこのほど神奈川県横須賀市の事業所に試作ラインも導入した。
オフィスや店舗向け業務用照明分野で強みを発揮している三菱電機は今年度中にLEDの光を拡散するレンズとモジュールを内製化すると共に、照明技術者の半数以上をLED開発担当にシフトした。LED電球は提携先の独オスラム社から調達することを決め、今年下半期から本格販売に乗り出している。NECもこのほどLED電球の発売を開始することを表明している。
また三菱重工業などが出資するルミオテック(山形県米沢市)が今秋からLED電球のサンプル出荷を開始したほか、コニカミノルタホールディングスは来年度の事業化を目指して開発体制を強化している。LEDと有機ELの両照明分野への参入を計画しているが、当面は手堅く光学技術を生かした部品分野に進出、照明器具メーカーに供給する体制とする方針。
三菱化学は青色発光ダイオードの産みの親である米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授中村修二氏と共同開発した高効率のLED素子を武器に来年春にLED事業に参入する方針。共同開発した白色LEDは古巣の日亜化学とは違った方式で、従来より将棋電力に対する明るさを1.5倍から2倍高めたもの。この新素子と器具類(国内の電機メーカーに生産委託)で5年後1000億円の売上高を目指す方針。
ある証券会社系シンクタンクの統計では照明の世界市場規模は08年が約6兆4000億円で、そのうちLED照明の業務用が中心で約420億円程度で全体の1%弱。しかし温暖化対策として今後3〜4年のうちに白熱電球が市場から姿を消すことから今後5年以内に現在の約10倍、約4800億円にまで伸びると予想している。
また国内市場については富士経済が調査しているが、現在は約200億円(09年度予測)だが、12年度中にLED照明の市場規模は08年度比4倍の600億円程度に拡大すると予測している。

3.LED搭載の液晶テレビで攻勢をかける韓国サムスン

LEDの活用は画面を後方から照らすバックライトとして液晶テレビ、パソコンなどに搭載されつつある。液晶テレビに利用した場合、約30%の省エネ効果が期待できるとともに、薄型化、デザイン性に優れるなどの特徴を持つ。
現在、LED搭載の液晶テレビは全体の3%弱だが、近い将来40%まで拡大すると予測する市場関係者が多い(15年度には15%へ)。
この分野ではソニーが初めて搭載し、独自のエッジライト方式を開発、50インチテレビで1.6センチの壁掛けテレビを世に送り出した。エッジライトは薄型化を実現できるのが特徴だが、画質がやや劣るのがネック。ソニーではこの弱点を解消するため240コマと4倍の高密度ライトを採用、課題解決に努めている。
シャープは直下型LEDバックライト方式を開発、光を通し易くし、画質の向上に努めている。日立製作所もこのほど42型液晶テレビにLED搭載を決め、市場参入を図っている。
だが世界に目を向けると、韓国サムスンがこの分野に参入、あっという間に40%のシェアを占めるに至っている。米国市場だけを見るとLED搭載型液晶テレビでは90%シェアをすでに占めている(低価格帯が主)。
韓国サムスン電子はさらに攻撃を強め来年度のLED搭載型液晶テレビの販売目標を09年見込み比5倍の1000万台以上を計画している。ある液晶テレビメーカーの試算によると、46型テレビでバックライトにLEDを約500個使用するという。仮にサムスンが来年販売するLED搭載型テレビに500個ずつ使えば、同社だけで50億個のLEDを消費することになる。すでに日本メーカーのソニーやシャープなどもLED搭載型新製品を続々投入することからLEDチップの市場は一気に急拡大する。
LEDチップの世界主要メーカーは日本の日亜化学工業、豊田合成、オランダのフィリップス社の子会社である米国フィリップスルミレッズ社、米国クリー社、独オステム社の5社。そしてサムスンはグループ企業と共同で今年4月にサムスンLEDを設立、月産10億個の生産体制を確立、世界首位の日亜化学に肉薄している。そして来年は月産20億円個体制に引き上げ、一気に首位をうかがう。そしてサムスンは近い将来家庭用LED照明に進出する気配を見せている。また関連メーカーではLEDチップを基板から切り出す装置を製造する。ディスコの業績が急回復、10%増の580億円に修正している。

4.「改正省エネ法」も普及を後押し

民主党新政府は今年の国連・気候変動サミットでわが国CO2削減目標を1990年比で2020年までに温室効果ガスを25%引き下げると公約した。その実現のためには一家庭あたり22万円の投資が必要という新試算も出たが、工場などに比べ家庭・オフィスでCO2削減が進んでいないのが実情だ。逆に家庭部門は90年比で排出量が40%近く増えてしまった問題部門と言う指摘。
資源エネルギー庁の試算によると、日本の家庭での最も電気を使うのはエアコンで全体の25.2%、照明と冷蔵庫が同率2位で16.1%、テレビが4位で9.9%、となっている。LEDはテレビ以上に照明で省エネの威力を発揮する。それが60ワット白熱電球1個をLED電球に交換すると、年間約70キロもCO2を削減できる。よって全国の家庭で使われている電球を全てLED電球に交換すれば、CO2を年間170万トンも削減できることになる。よりこれら照明を普及させるためにはエコポイントに組み入れるなど、政府のエコ施策が必要になるかもしれない。
来年4月、エネルギー使用効率の改善を求める企業の対象を広げる「改正省エネ法」が施行される。従来は事業所単位だったものが企業単位に切り替わり、エネルギー使用量(原油換算値)の合計が年間1500キロリットル以上の企業を対象に各地の経済産業局に使用量の提出を義務付けるもので、加えてエネルギー使用効率の平均年1%以上の改善する努力目標も課している。同時に東京都は都内の大規模事業所に同じく来年4月からCO2の削減義務を課す。これに対応して埼玉県などは省エネ機器の購入費などに最大20%補助する「中小企業省エネ緊急支援事業費補助金」助成制度をスタートさせている。埼玉県の地場食品スーパー、マミーマートは店舗周りの照明を従来のハロゲンタイプからLED照明に順次切り替えていく方針を打ち出している。なおLEDの次に続く照明革命に有機EL活用法があるが、その用途開発、ビジネス展開の動向については別の機会に報告したい。


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