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【連載:世界一の品質を取り戻す14】

検証・日本の品質力
高まる中国市場への期待とCCC認証制度
山本 行雄  
(ジャーナリスト・前日刊工業新聞論説委員)  
 

米国発の金融危機は世界の実体経済に大打撃を与え、急転直下の消費大不況に陥れた。各国ともさらなる悪化を食い止めるべく財政出動し、回復基調に乗せる施策に躍起となっているが、何といっても特効薬は米国の消費回復。しかし、まだ先行き不安の残る中、当面の期待は比較優位の立場に立つ中国の存在。先進各国がマイナス成長の中、13億人の消費者を抱え、6%台の成長を続けている中国市場に向ける各国産業界の視線は熱い。
こうした事情を背景に中国政府が推し進めようとしているのが、どの先進国も採用していない異例の制度と批判されている「CCC(China Compulsory Certification)認証」と呼ばれる強制製品認証制度。特に去年1月、IT(情報技術)セキュリティ製品を対象とした同制度の運用開始の表明は、日米欧各国の猛烈な抗議により当初予定されていた今年5月からの導入は延期すると表明していたが、4月中にも実施規則の詳細を公表し強行する姿勢を見せている。当初の制度案を一部見直して適用までの猶予期間を設けるものの、強制開示の根幹は変更しない模様。国際問題に発展する可能性が強くなった。なぜこうした問題が出てくるのか、その他の認証制度とも合わせ、中国の裏事情を探ってみたい。

1.転換点で呻吟する中国経済

2001年のWTO(国際貿易機関)への加盟から始まった中国の高度経済成長は、日本の1960年代の岩戸景気に酷似している。中国は沿海都市部を中心としたインフラ整備とモータリゼーションの進展、外資、技術の導入等によって2002年以降、毎年9%以上の成長を果たしたのに対し、日本もインフラ整備、モータリゼーション、内需、貿易の促進によって年率11%の成長を果たした。そして共にオリンピックを契機として、それまでの反動減を経験している。中国の場合は反動に世界景気の急減が追い討ちをかけた。輸出の収縮がそれに輪をかけた格好だ。だが、40年前の日本と現在の中国を比較した場合、決定的な相違も存在する。それは人口の多さと国土の広さに起因するものである。当時の日本は池田内閣の所得倍増計画に代表されるように都市と地方の所得格差を埋める施策によって、80年代、国民総中流と言われるような所得の平準化社会が経済成長と共に進展したが、中国の現状は13億の民に占める8億の農民と都市生活者5億人の所得格差は広がるばかりだ。その差が人口と国土の差に由来する。狭い国土では安いコストでインフラ近代化、情報流通が可能になるのに対し、広い国土ではコストが膨大になり時間がかかる。
日本は割合速く労働集約型から技術集約型、知識集約型への構造転換が進んだが、中国の場合は安い労働力が地方に潤沢に存在することから技術集約型への構造転換の歩みが遅く“今だ遠し”の感が強い。
改革開放経済のスローガン以来、中国オリジナルの技術開発に力を入れているが思いの外、育っていない。海外に流出していた頭脳を呼び寄せ、税制面など優遇策を講じて新技術開発、ベンチャー育成に注力しているが、際立ったものはまだ少ない。
その要因の第一が一党独裁の政治体制。国営企業およびその傘下企業の儲け過ぎと情報の独占、計画経済の残渣もまだ残っている点にある。
09年度の日本の国家予算50兆円強のうち、実税収は40兆円を大きく下回ることが予想されており、15兆円の追加経済対策を実行すると、税収を国債発行額が上回る逆転現象が初めて出現することが予想されている。
これに比して中国の予算をみると08年は、国家予算80兆円に対し、国家収入は100兆円に迫る勢い。その背景にあるのが国家企業による独占的儲け過ぎと高い経済成長に由来してそれが強い中国の演出に活用されている。
09年度の世界経済は日米欧ともかつてないほどのマイナス成長(日本の場合IMFは6.2%)のマイナス、OECDは6.6%のマイナスを予測)なのに対し、中国政府は8%の成長を予測している(3月初旬開催された第11回全人代での政府方針)。
昨年後半以降、中国は25%以上の輸出減に見舞われ、年率換算で6%台の成長に落ち込んでいるが、その対処策として輸出依存型経済から内需中心型経済への移行を目指し、4兆元(58兆円)の大型経済対策を実施しつつある。そして、8%成長必達のためには「さらなる経済対策を用意する覚悟」(政府首脳)という強い息込みを示している。GDPに占める個人消費の割合が米国70%、EU60%、日本57%なのに比較して中国は40%以下、その余力はまだ十分ある。その直近の例として、中国は農村部の消費刺激策として車購入者に10〜13%の補助金を配布、その効果もあって今年3月の車販売台数は111万台と米国を上回った(ただし1台50万円程度の小型車で金額ベースでは米国の方が上)。
最近の世界経済を牽引してきた米国と中国、その一角の米国消費経済が崩れた今、期待するのは中国の内需(インフラへの大型投資を含む)。しかし、それを逆手に取った施策がCCC(3Cとも言う)の独占的追加対策。全世界に大きな波紋を広げている。

2.独善ルール「IT製品設計方法開示制」を計画

3CはWTO(世界貿易機関)への加盟の翌年(2002年)5月に創設された中国独自の製品安全規格の実証制度。利用者の健康や安全、環境などに悪影響を与える可能性のある製品について強制的に安全性を確認する制度で、本格施行は03年8月1日から。対象となる製品は当初、家電製品やパソコンなどを中心とした19分野132品目だったが、07年6月に玩具などが追加され、現在では22分野159品目まで拡大している。
対象となった製品は一部の展示品などを除いて国内産、輸入品を問わず認証を取得しなければ、中国国内で販売できない。(認証取得品にはCCCマークを貼付)。一般的にこうした制度を導入しているケースもあるが、相互認証を行い、スムーズに運用している場合が多い。しかし中国政府はこの相互認証制度を認めていない。特に中国へ輸出する海外企業は、中国の試験機関に資料やサンプルを送付したり、工場監査を受審しなければならず、企業から不満が続出していた。
実際に対象商品を中国国内で販売している企業に3C認証の問題点を指摘してもらうと次のようなポイントが列挙された。
  1. 3C認証取得まで約6ヶ月程度要するため計画通り出荷できない
  2. 工場監査が必須であるが、監査拒否する工場がある
  3. 海外工場の監査も必須であるため、日本からの輸出は困難を極める
  4. コンサルタント会社を利用した代行申請も可能だがコストが高い
  5. 中国国内の工場監査で不合格が続出している
  6. 同カテゴリー、同シリーズにもかかわらず工場が点在している場合、費用がかさむ
  7. オーダー数が少量の場合、コスト見合いで販売を断念せざるを得なくなる(テスト販売できない)
  8. 商品検査での不合格
  9. 年間費用として10万ドル程度必要となるケースが多い
  10. 3C認証なしでの出荷待ちとなると、その費用はさらにかさむ
不平、不満の多かった同制度に加えて、08年1月に、国家質量監督検験検疫総極および国家認証認可監督管理委員会(CNCA)が共同して出してきた「部分情報処理のセキュリティ製品に関する強制認証」実施の広告。新たに認証の対象となる予定の主なセキュリティ製品は
  1. ファイアウォール
  2. ICチップ用OS(基本ソフト)
  3. データバックアップ用ソフトウェア
  4. 迷惑メール防止製品
  5. 不正アクセス侵入探知システム
  6. ネットワーク監視システム
など13品目を対象としており(表1参照)、当初、09年5月1日施行の予定としていた。この製品の生命線である中枢技術の情報を丸裸にし、中国当局に開示するように求めた同方針に日米欧・韓国など先進技術国が一斉に反発した。
中国政府は「ソフトウェアの欠陥を突いてハッカーやコンピューターウィルスが侵入するのを防ぎ、消費者を保護するために事前チェックが必要だ」と説明するが、それを額面通り受け取る向きは少ない。「メシの種である中核技術が中国企業に漏れる恐れがある」のに加えて、当局がサーバーの暗号技術などを把握することによって「ネット上に流れる情報の監視に使われる可能性がある」など多くの懸念の声が噴出した。勘繰れば、国の掛け声通りに進まない技術革新に、世界最大の消費市場を背景に、一気に技術格差を埋める武器にこの制度を活用しようとしていると見ることもできる。因みに中国工業情報化省傘下の調査会社のデータによると、中国市場におけるITセキュリティ関連製品の市場規模は約80億元(約1200億円=08年データ)に達しており、毎年2ケタ成長を続けている。
しかし、この制度は知的財産権を侵害される恐れがあることから中国政府が強硬に実施に踏み切れば日米欧が共同でWTOへの提訴の姿勢を見せ、3月にはWTOの「貿易の技術的障害に関する協定」(TBT協定)の会合で日本、米国、EUが懸念を表明したことから、中国政府は強制開示制度の施行を延期した。しかし直前になって日米双方に猶予期間を設けるものの強行実施を通告した模様だ。今後、日米欧は共同で中国側に知的財産権の問題を指摘した上で、どうしても制度が必要かを改めて強く説明を求めていく方針で「制度を撤回しなければ、WTOへの提訴も現実味を帯びてくる」と警戒心をさらに強めている。国家の技術戦略の根幹に触れる部分だけに大きな国際問題に発展されることも懸念される。

3.中国の製品規格「国家標準(GB規格)」に対する日本企業の対応の遅れ

中国で工業製品の製品規格を定める法整備が本格化したのは1990年代の後半から。製品規格は同国では「国家標準」(GB)と呼ばれており、適用の対象となるのは中国国内で生産・販売されるすべての工業製品。産品質量法、消費者権益保護法、合同法、標準化法、広告法、国家通用語言文字法などに明記されている。GBは「日本工業規格」(JIS)に似ているが、JISと決定的に違うのはGBが強制力を伴う点。違法製品に対しては生産・販売・輸入を禁止できる。
日本と中国で最も重要度の異なるのが製品の付属品や付属書類の位置付け。例えば使用説明書(マニュアルや取扱説明書)で日本では単なる使い方の説明書に過ぎないが、中国のGBでは製品の一部、契約書の一部とみなされる。「製品の機能が説明書に書かれていることと完全に一致することが要求」されており、誤記があればすべて完全なものに作り直す必要性も生じる。製品各称もGBで指定された各称に統一することも求められている。
もうひとつの大きな特徴が、説明書はもとよりテレビ、携帯、プリンターなど画面に表示される文字もGBに定めた「簡体字」の自体を使うことを規定している点にある。
こうした内容に対し、GBから外れた日系製品が、まだ数多く存在していることから当局のこうした製品の一斉締め出し、摘発もあることを念頭に対策を早急に施す必要がある。現在、世界不況の中で、自国産業の保護に動き出す懸念が指摘されているが、特に中国は一国主義に走りがち。国際ルールの整合性をとりながら発展を持続させていくことが中国の国益にもつながることを自覚して欲しい。国際的な協調と責任ある行動が今、中国には求められている。それなくして産業の高度化はなし得ないし、最も不利益を被るのは中国自身である。

表1 第1回情報処理セキュリティ製品の強制品目リスト
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