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【新連載:古典に学ぶビジネスの要諦(5) 最終回】

天の利 地の利 自ら風を起こそう!!
銀鈴舎 仲原一也  
 

 加速するグローバル化、為替相場の変動、ライフサイクルの変化と価値観の多様化、あるいは少子化によるターゲット人口減少によるマーケットの縮小。さらに環境対応、ことにCO2削減目標達成のための環境対策、先が読めない景気動向と政策……。企業を取り巻く外部環境は厳しい。そして、いずれも自社の努力でいかんともしがたいものがあるのも事実だ。人口減少を食い止めることが一企業でできるのであれば、とっくに日本の人口は反転している。だが、このなかでもゴーイングコンサーンを考えれば企業努力は必要だ。では、何ができるのだろうか。

●左右できるのは限られている

 企業はモノやサービスを売り、それによって利益を得て活動を展開する。といっても利益はひとりでに生まれるものではない。原価プラス利益の売価という図式で売価は顧客が決める。つまり、利益を確保するには原価を低減させるしかないのである。
 また、加工時間を短くするといっても、機械が稼働する時間は変わらない。たしかに高機能マシンであれば、加工時間を短くすることができる。しかし、ゼロにすることはできない。また、現場の裁量で購入できることでもない。左右できるのは手待ちや歩行などのムダを排除することでしかないのだ。
 中国の三国時代、曹操と孫権、そして劉備が争っていた208年。劉備と孫権は同盟を結び、曹操と対峙することになる。それが赤壁の戦いである。長江沿いにいくつかの「赤壁」が存在する。湖北省蒲圻市西南の長江南岸とも、北宋の文人蘇東坡が湖北省黄州市西北の長江北岸の赤鼻山ともいわれる。いずれにしても河を挟んでの闘いであり、船の優劣と水軍としての兵の訓練がものをいう。孫権は周瑜・程普ら数万の水軍を派遣、一方の曹操軍も荊州軍閥の水軍を動員した。両軍は赤壁で接触する。
 このときの兵力は曹操15万人、孫権・劉備連合軍5、6万人といわれている。この差は3倍。しかも、曹操といえば後漢の祖。食糧に事欠かないよう屯田制を敷き、戦乱で田畑を奪われた農民を受け入れた知将だ。
 これに対して、孫権は父、兄から受け継いだ軍閥を積極的な人材登用でまとめ上げた人物だが、騎乗が得意、率先して敵中に討ち入る人物。同盟を結んだ劉備は軍師に諸葛孔明を持つものの、兵の数は少ない。少ないどころか領土を確保することさえままならない状態であったのだ。しかも、長引く戦争で兵器の数も限られている。
 兵の数、将の資質ともに勝る曹操軍。ここでも左右できるものはそれほど多くない。
 そこで登場するのが軍師・諸葛孔明である。孔明が着眼したのは敵の船と船の距離が短いことだ。ここに火をつけることができれば、勝利は固い。だが、火攻めは風の向きが変わると自軍に火をつけることになってしまう。
 そこで、孔明は風の向きを読み、東南の風が吹き、風向きが変わるタイミングをとらえ、火を放つ。しかも、その前に間者を入れ、兵の船酔いを防ぐために鎖で船と船をつなぎ、安定させる作戦を曹操に進言、兵思いの曹操に実行させている。
 鎖でつながった木造船に風下からから火をつけたらどうなるのか。もともと曹操の地盤は大陸であり、水を控えた闘いには弱い。
 この作戦は多いに当たり、曹操の全国制覇を遅らせることになった。

●黙っていても、風は吹かない

 では、このときどうして孔明は「東南からの風を吹かせる」といいきったのか。孔明自身が祭壇で祈って風を吹かせたというが、祈っただけで風が吹くはずはない。その時期に風が吹くことを知っていた、地域住民のヒアリングをした、ドジョウを使って知った(なぜ、ドジョウなのかはわからないが)と諸説がある。ただし、意味もなく、何の考えもなく「風を吹かせる」といったのではないことだけは確かだ。命がかかっているのである。確証がなければ、火計など使えないのである。
 自分の力でどうしようもないものは多い。
 孔明の場合も連合軍ゆえの脆弱さ、兵力のなさ、兵器の少なさ。しかも、そこで敵に接触してしまっているのであるから、陣を整えることも難しい。地の利はない。まして将の裁量を考えれば、まともに戦いを挑むことなどできなかったのだろう。使えるもの、自分で呼び寄せられるものは天の利(天候)だったのである。
 だが、天の利を使うために彼は努力をしている。少なくとも知識を持っていたはずだ。住民のヒアリングにしても、敵の諜報がまぎれていることもある。幾重にも思惑が重なったなかで、的確に判断し、断固実行していったといえよう。
 実際に風を吹かせることはできない。しかし、風が吹くことを知り、それを活かすのが軍師の軍師たるゆえんともいえる。そういう点では孔明の陰での努力が「風を吹かせた」ともいえるだろう。
 現場も、企業も同じだ。黙っていても風は吹かない。「原材料が高騰している」「市場が縮小している」「為替相場の変動が激しい」「金融が引きしめてきている」・・・・これは変えられない。
 ちなみに勝敗は王の人徳、将の優劣、兵の数、国力(財力、食糧生産、武器の補給)、兵の訓練、情報に加え、地の利、天の利があるといわれる。企業に当てはめれば、変えられないものは多い。トップや上司の人事、資本金や設備投資、中長期計画や他社との合併吸収なども変えにくい。兵力(従業員数)も一担当ではなかなか通るものではないだろう。
 しかし、風が起きることもある。ただし、それは何もしないで起きるものではない。自らが変えられるところ、自らの力で決められるところも多い。ここを探し、変化させていかなければ永続できない。天の利、地の利を自ら呼び寄せていきたいものである。

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