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【新連載:古典に学ぶビジネスの要諦(4)】

スピーディな対応に勝るものなし
銀鈴舎 仲原一也  
 

 古代中国は戦乱につぐ戦乱の世の中。こうした情勢下、各国の王の軍師、指南役となるべく各種の兵法家がそれぞれの戦術を述べていた。孫子はこうした戦略、戦術をまとめたもので、編著は孫武とされる。このなかで「作戦篇」は戦争の準備について記されている。今回はこのなかから、「故に兵は拙速を聞くもいまだ巧久しきを睹ず」を取り上げてみる。

●何事もスピードが命

 何事でもそうだが、結果や成果は早くほしい。プレゼンをすれば、たとえ、ダメでも早く結論をもらいたい。次の手が打てる。仕事でも「明日の100点より今日の75点」といわれることも多い。
 もちろん、品質や安全に関することで75点では困るが、改善を推進していて、「明日の100点」を目指すばかりに綿密な計画を立案し、リスクヘッジをして・・・とやっていると、何の結果も出ないことになってしまう。
 改善活動などでのこのスピード感のなさはやがて職場に蔓延、「結果もでないし、やってもやらなくても同じなのではないか」とモチベーションが下がってしまう。有能なコンサルタントは成果を出しやすいところを見つけ、そこを成功させ、成功体験を重ねさせることで全職場へと展開していく。
 「5S」も当初は目に見えてきれいになり、整理整頓されることによってスペースの有効活用ができる、モノを探す時間がなくなるといったメリットを享受できる。成果が早く現れるという点で、改善の第一ステップとして採用することが多いのだ(といっても、これが永続するかどうかは全く違う次元の話であるが)。
 さて、戦争はどうか。長引くと前線の士気が下がる。国内での厭戦気分も広がる。兵站も大変だ。戦費もかかる。というわけで、「それ兵久しくして国利あるは未だこれあらず」といわれる。戦争が長引いて、国が栄えた例はないというわけだ。そこで、それに見合った戦術が必要だ。それが「故に兵は拙速を聞くもいまだ巧久しきを睹ず」につながる。
 「したがって、戦い方が拙(つたな)くても速やかに終結させるということは聞くが、戦い方が巧みで長い戦争をやったという例は見たことがない」という意味だが、その後に「そもそも戦争が長引いて国家に利益をもたらしたためしがない。したがって戦争の害を知り尽くしていない者には戦争の利益を十分知り尽くすことも不可能である」と続く。

●一人1件/1カ月の改善が強い企業をつくる

 では、スピード感ある戦いのどこがいいのか。
 ひとつには味方に対する問題がある。戦争が長引くと士気が下がることは先に述べたが、前線での厭戦気分はそのまま敗北につながる。しかも、農民が駆り出されていれば、作物のことなども気になる。戦う気分にはならない。
 もちろん、戦費は多額だ。問題なのは当年だけでなく、農民が駆り出されているので、翌年の作柄に影響することである。戦場になったところはもとより、手入れができない田畑はあれていく。
 さらに、当時は内通や裏切りがある。敵方のスパイが入り込まないとも限らない。上杉謙信でさえ、布陣が長引くと配下の将に「誓詞」をとった。裏切りませんという紙の威力はどれほどになるのかはわからないが、それでも誓約書を書かせずにいられないほど、不安だったのであろう。
 そして、対外的な問題もある。
 こう着状態が続いていれば、それまで戦っていなかった他国から攻められる恐れもある。また、他国の利となるケースも多い。織田信長が天下統一を果たせた理由の一つに上杉・武田の両雄が争っていたことが上がるほどだ。
 これは社内でのさまざまな活動にあてはめてみればよくわかる。
 改善チームを組む。これが成果を出し、スピーディに改善を進めていけば、賛同者も増え、利益にもつながるという好循環を生む。また、生産計画への影響も少ない。専任要員を抜かれた職場も恩恵にあずかれるというものだ。
 しかし、成果がでなければ、その活動そのものに疑問がもたれてしまう。そうこうしているうちに、改善そのものをやめてしまえという声もでてくるだろう。
 ちなみにトヨタ自動車九州では1カ月に一人平均1件の改善を行っている。問題を発見し、原因を追求、その対策、改善をし、成果を出して1カ月というサイクルだ。このスピード感。
 当然のことながら、改善をする時間と場所、そして社内調整を保証する社内システムがあるが、このスピードがグローバルで戦う同社の強みだ。
 もちろん、早くて完璧なのがいい。しかし、長い期間置くよりも、早い対応がいい。「失敗からも学ぶことがある。同じ失敗はしないから。だからスピーディな改善がいい」とは同社の言葉。
 現代も「兵は拙速」がいいようだ。

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