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2006.07【特集記事−図説「目で見る管理」(6)】
無人化の盲点と対策
−「人がいないから分からない」をいかに回避するか−

片岡 緑(本誌編集部)
 
コスト低減のために無人化を行うのは通常行われる手法である。文句も言わず、いわれたとおり(コーチングされたとおり)、ミスなく、ムラなく単純作業の繰り返しもいとわない。もちろん、危険な仕事もできるし、万が一のことがあっても、人命に比べれば軽いものだ。これに不良が出たら、そこで止まる仕組みをつけて、自働化すれば、いうことなしともいえるだろう。しかし、実はそんな工程にも盲点がある。それを目で見る管理で防いでいるケースを紹介する。

●将来性を見込んだ無人化のメリット

「無人化」のメリットは多々ある。経営的にみれば、コストと品質である。
同じ仕事を文句も言わず、同じタクトで、常に公差内の仕事を行うロボットや加工機は日本の製造業の強さを支えているともいえる。しかも、減価償却がすんでしまえば、その後は稼働させればその分は経営数字に結びついていく。その日の気分が変わったり、マインドが下がったり、あるいはモチベーションを持ち続けさせるための工夫や仕掛けをしなくてもいい。
他方、人材不足を補う意味でも、無人化はメリットである。派遣や請負の活用が進んでいるとはいえ、国内工場においては単純作業の繰り返しでは機械にやらせたほうがいい。しかも、これから先、高齢化、少子化が進むにつれ人手は足りなくなってくるのは明白だ。大学全入時代ともいわれているが、この世代が就職するのである。しかも、豊かな時代の子供たちだ。親世代のストックもあり、全員が就職するわけでもない。最近の大学生の学内就職窓口への相談は「内定をどう断るか」だそうだ。派遣、請負にしても、若年労働者の数が減っており、若年の登録者数が今後減少傾向にあることには変わりはない。「いかに集められるか」がポイントになってきており、サービス業との取り合いも行わなくてはならない。さらに、景気の回復が拍車をかけている。
すでに愛知県内の有効求人倍率は1.84倍と27ヶ月連続で全国最高を記録している。愛知県ばかりではない。東海地方ではすでに人材不足を実感しており、機械化、自動化を積極的に進め、「デジタル技術を応用、ディスプレイに次の組み付け部品を明示したり、ポカヨケを組み込んだりして誰にでも作業ができるよう工夫するとともに、快適な職場作りを行い、やる気をもって作業ができる環境を整備している」(浜松にあるローランドディー.ジー.)という。
一方、労働環境からみれば、きつい、汚い、危険などの3K仕事や高温、低音、臭気はのある工程などはできるだけ、機械化し、安全できれいな職場をつくることは労使ともに目指すところであろう。

●人と機械の共存・協調

そこで、機械の登場となるのだが、単純にロボットを並べても生産の変動に対応できなければ、需要が減ったときに過剰設備となってしまい、投資が重荷になる。逆に無理やり稼働率を上げるために低値の受注を繰り返せば、製品価値が落ちていく。
そこで、機械稼働を休止をすることになるのだが、休止させている間、ライン内でスペースを割かなくてはならないのであれば、コンパクトなラインにできない。不必要に長いラインでは管理工数がかかる上、自動化で対応しているのであるから、運搬(ライン上を流れる)というムダな時間が多くなり、1個当たりのリードタイムが長くなってしまう。
そこで、生産変動に対応でき、受注量が減った場合はコンパクトなラインに編成しなおすことが簡単にでき、なおかつ限りなく自動化できているのが望ましいということになる。
それを具体化したのが、デンソー安城製作所のスタータ組立ラインである。ここでは自走式のロボットが複数台並んで組立作業をしている。生産量が多くなったらこのロボットを追加する。ロボットは磁気テープの上をティーチング通り動くので、人が設備を動かすことはない。もちろん、これらはネットワークでつながっており、生産情報との統合ができている。不良が出てもつくり続けるムダもないような仕組みも織り込んである。つまり、軌道上のみの移動だが、ライン全体では自律型自働化ラインだといえる。
スタータ組立ラインはほぼ全自動ラインとなっている。同社では「3Kなどのところは自動化し、人と機械が協調していくことで、よりよい環境を目指したい」という。

図


●自動化では分からない事象を管理する「目で見る管理」

と、こうして並べると自動化は大変有効な手段であることが分かる。では、それが100%なのかとなると、実はここで現場のノウハウや人の知恵が必要とされるのである。
実は、自律型といっても苦手なものはある。このラインのロボットはセンサによる位置決めや部品の取り付けはできても、「暑い」「寒い」を感知することはできないのである。温度管理をする必要がないからついていないというシンプルな理由なのだが、この製品には熱試験の工程がある。高温下での動作を確認し、その温度に耐えられるかをみる製品の品質にかかわる工程である。
だが、この工程が高温か、常温かは外からみて分かるようでなければ困る。逆に高温にもかかわらず、温度管理において不都合が起きていた場合、どこで、だれがいつ、検知し、どのようなアクションをとるべきかが決まっていなければならない。人が作業をしている工程であれば、高温か常温かは分かるのだが、高温下で働き続けることは望ましくない。
そこで、アンドンの登場だ。大きく「常温」と書かれており、ここが常温の工程であることが誰にでも分かる。アンドンといえば、生産数、予定数、進捗などを表示するのが普通だろうが、それにより、「今日はいいペースで進んでいるな」「遅れ気味だから、午後は少しがんばらないと」「残業かぁ」などと機械が考えることはない。これらは機械のデータを追跡することで十分分かるのである。
アンドンで何を知らせるか、何を管理するかはその工程で何を管理したいかによる。温度管理とは意外かもしれないが、自動化の盲点ともいえる。ちなみに高原氏は「無人化された工程のほうが、労災においては怖い。人がいるところはヒヤリハットなどをしたり、恒常的に安全管理基準を遵守するべく努力したりしている。ところが、無人だと人がいないから安全だとして、考慮しない。そこにメンテナンスなどではいったり、チョコ停などで入ったりして大きな事故につながるケースが多い。自動化、無人化マネジメントは考えているほど、簡単ではないのです」と指摘する。
今後、生産現場で考えていかなければならない自動化や無人化。どのような知恵を盛り込むかがその企業の競争力にもつながる。


今後の見学セミナー開催予定(講師:高原昭夫氏)
7月13日 トヨタ自動車(愛知)工場見学セミナー
    (講師:高原昭夫氏)
8月 4日 トヨタ自動車(九州)&日産自動車(九州)工場見学セミナー
    (講師:真嶋一郎氏)
8月30日 ローランドディー.ジー.(静岡)工場見学セミナー
    (講師:滝川一典氏)
9月28日 デンソー(愛知)&矢崎化工(愛知)工場見学セミナー
    (講師:高原昭男氏)
(以上は予定ですので、スケジュールの変更や見学先の変更もあります。ご予約の際にご確認ください)


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