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2006.03【特集記事−図説「目で見る管理」(2)】
とまってから行動するのでは遅い、とめないために努力を惜しまず
片岡 緑(本誌編集部)
 
 「目で見る管理」は比較的取り入れやすい管理手法といわれている。道具立てもよく目にするものであり、高額な設備投資が必要なものでもない。しかし、実際に効率化に結びつけるために運用するためには、「目で見る管理」以前に必要とされるものがある。今回紹介する「アクションするためのアンドン」も、このアンドンを機能させるための工夫が現場のあちこちに散見される。


●予知能力をアップする

 防災や防犯などが世間で話題になっている。それにともない、通学路の危険箇所をピックアップして地図をつくろうといった取り組みや災害が起こったときにどんな危険があるのかを予測して、それに備えようという動きもある。産業界では、KYTなどに取り組んでおられるところも多いだろう。
 あらかじめ、危険な箇所や行為、不安全な作業などを洗い出していくことで、事故を未然に防ぐのである。
 あるいはヒヤリハットもそうだ。ハインリッヒの法則に従えば、大きな事故が起こるときにはそれ以前に軽微な事故が29件、ヒヤリとしたりハットした経験が300あるというものだ。そのため、現場で起こったハットした経験を集め、それを分析し、原因を排除していくことで、大きな事故の発生を未然に防ぐのが趣旨だ。何かが起こってから対処するよりも、起きないような工夫をするほうが、コスト的にも優れている。また、生命にかかわる事故が起こりかねない職場の場合、企業にとっては社会的損失も莫大なものとなる。そのため、事例をキチンと報告できる組織の風土づくりが必要だとされる。
 「予知」をプラスに使うこともある。スポーツなどで取り入れられるイメージトレーニングだ。自分の理想とするフォームを頭の中で描く、球筋を描き、それを打つ姿を想像するといったものだ。
 スポーツや犯罪、災害など、その場に遭遇してみなければ分からないものだ。だが、あらかじめ自分のなかで想像しておけば、その場になってもあわてる度合いが少ないといわれている。

●次に起きることを「見える」ように

 ところで、こうした予知だが、生産現場で予知しなければならないのは危険だけではない。機械設備の更新やメンテナンス時期、治工具の取替えや自動機における供給部品や部材の不足、1ロットの作業終了、段取り替えなどがそれにあたる。
 トヨタグループでは徹底的に自働化が進められている。調整や移動、判断をしている時間は付加価値を産まないからだ。といっても、機械がバンバンつくっているのではない。これでは機械に不具合があったら、不良品をつくり続けることになってしまう。そこで、不良が出たら止まる、次工程に流さないという仕組みを機械につけているのだ。
 では、自働化で何が問題になるのか。それが段取り替えであり、部品・部材の不足であり、カンバンで指定された数量に達した時点である。こうした事象が起こると、作業者はそれぞれに対応をしなければならない。機械が自動的にはね出し、パレットに入れるまではできるが、部品供給まで自働化されていないことが多い。あるいは定まった数がパレットにできたら、そのパレットなり通い箱を交換しなければならない。ところが、こうした仕組みを自動にしようとするとコストがかかり、しかもフレキシブルな対応ができない。そこで、人手が必要になる。
 自働機であれば作業者は多台持ちをするのが普通だ。電気・電子部品関係のセルラインなどでも多台持ちをするが、これは作業者がセットをしている間に他の機械が加工をするといったもので、目が届く範囲にある。ところが、成形機などが並んでいる場合、それぞれの機械の状況を一目で見渡すのは難しい。
 そこで、活躍するのが、「目で見る管理」である。
 よくあるのが、パトランプだ。赤、黄、緑で赤が停止、黄色が段取り換え、緑が運転中といった区分けはよくみられる。機械の状況が一目で分かるというので「目で見る管理」 の基本といってもいい使い方である。現場でなにがどうなっているのかが分かり、稼働率とつなげれば設備改善にもつなげられる。
 だが、設備改善につなげられるといっても、停止してからアクションを起こすのでは、遅い。とめないためには「止まりそう」という予知が必要である。その予知は分かりやすい方がいい。
 ラインにそれなりの人数がいる場合はそれぞれの機械に取り付けられたライトをこまめに見て判断できる。停止する前にアクションを起こせるだろう。しかし、限られた人数しかいない現場で、なおかつ多数の機械が同時に稼働している場合、個々の機械の稼働状況をチェックしていられない。また、見落としもでてくるだろう。
 それを解決しているのが、デンソーのアンドンだ。機械が並ぶ工程の上方、誰もが見える大きなアンドンにナンバリングされた機械の番号を表示、完成品がたまったことや供給部品を必要とする機械の番号を点滅させるのである。天井から下がっているため、視認性がよくどこにいても見えるので、すぐにアクションを起こすことができるのがいい。


図


●やっぱり必要「作業分析」と「現場の工夫」

 さて、予知である。どの時点でアンドンを点滅させるのかがポイントになる。基本的には作業が完了までに必要な時間に作業にかかるまでの余裕をプラスするが、このあたりにノウハウがある。また、速やかに作業に取り掛かれなければ、いくら「異状」を早くに知っても意味はない。
 そこで活躍しているのは段取り換え台車。台車つきのワゴンに必要な治工具一式が整頓されてセットされているので、機械横につけたら、すぐに作業に取り掛かることができる。もちろん、この台車も整理整頓されていることはいうまでもない。
 しかも、通路には段取り台車の停止位置が明確に指示されている。デンソーの場合は単に通路にテーピングをするだけでなく床面に凸部をつくっている。手が届く範囲にすべての道具がそろっており、そこからの機械への距離が最適、しかも作業手順が確立しており、だれがやっても同じ品質で作業ができる――。ただ、「だれがやっても」といっても、新入社員ができるものではない。やはり作業訓練も必要であり、的確に、スピーディにできることも必要だ。
 他方、つくられた部品がいっぱいになったことを知らされたら、次にその部品をどこにもっていくかもはっきりしているが、どのくらいのロットがまとまったら知らせるのかは次工程との関係で決まっていく。
 「目で見る管理」の表面を見て取り入れるだけでは、こうした運用がうまくいかない場合がある。段取りにしても、まもなく段取り変えと知っても、治工具を探していたり、外段取り化ができていなければ機能しないだろう。
 たしかに異常を知ることができれば早くアクションが起こせる。しかし、それはあくまでも対処。むしろ、異常が起きる前に予知し、ラインを止めないためにどんなアクションができるかという対応が事前に検討され、その解答策が具体的に現場に落とし込まれていることがうまく運用できる重要ポイントだといえるかもしれない。


今後の見学セミナー開催予定(講師:高原昭夫氏)
3 月23日 トヨタ自動車工場見学セミナー
4 月21日 リコー御殿場工場見学セミナー
5 月18日 デンソー工場見学セミナー
7 月11日 トヨタ自動車工場見学セミナー
11月21日 デンソー工場見学セミナー
(以上は予定ですので、スケジュールの変更や見学先の変更もあります。ご予約の際にご確認ください)


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