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2005.08・09【特集記事−本誌編集部より−】
これが「統合マネジメントシステム社内標準事例集」だ
統合マネジメントシステムの基本的考え方
吉野技術士事務所 所長 
吉野 定治
 

1.統合マネジメントシステム取組の背景

 多くの組織は複数のマネジメントシステムを運用しておりそれらのシステムの非効率さが目に付くようになった。現在各組織(企業)で運用状態にある「品質マネジメントシステム」、「環境マネジメントシステム」及び「労働安全衛生マネジメントシステム」はその統合化の検討が必要な時期になってきている。
 組織が目指す統合化システムは単なるシステムの寄り合わせではなく、「組織の効果的かつ効率的な活動の総合システム」として確立される必要がある。この状況において課題となるのが文書体系や組織体制の重複化でありこのスリム化は重要である。
 この取組みは業種・業態及び組織の規模において一定ではなく、それぞれ適正な対応が要求されている。本書ではこの組織の特異性に配慮して統合化マネジメントシステムを提案している。その統合化マネジメントシステムには統一化システム、整合化システム、複合化システムなどが考えられる。この詳細は5項で説明する。

図表1:統合化マネジメントシステム(共有化/共通化)
図表1:統合化マネジメントシステム(共有化/共通化)


2.基本的な考え方と進め方

 統合化マネジメントシステムは唯一のシステムではなく、組織の形態に合わせた柔軟なシステムであり、基本は「組織の効果的で効率的な活動」が実践できるシステムであることが重要である。
 このシステムを構築するにあってマニュアルの統一化や規定・手順の共有化・共通化が考えられる。従来から、統合化はマニュアルを中心に考えていたが、規模が大きくなると運用上はマニュアルを個別に設定して運用することの方が適用しやすい面もある。そのため実際的な運用を考えると規定・手順の共有化・共通化が重要であることは間違いない。本書では、組織にあったシステムが構築できるようにするためこの両面を考慮している。
 図表1は、統合化マネジメントシステム構築における文書体系の基本を示しており、マニュアルは統一型と個別型がある。ここで重要なのは、共有化と共通化の考え方である。共有化は「仕組みを動かす方法の統一」であり、共通化は「一の作業に共通的に組み込まれるもの」や「ほぼ同一のシステムで運用可能であるもの」がある。従って、共有化は共通化を包含しているものでもある。これらの運用は、部分的な共有・共通化もあるので注意が必要である。この概念を図表2に示している。

図表2 共有化・共通化の概念
図表2 共有化・共通化の概念


3.統合マネジメントシステムのゼネラルフロー

 統合マネジメントシステムの基本はPLAN(計画)/DO(実行)/CHECK(確認・フォロー)/ACTION(修正・実践)であり、この基本構成をベースにゼネラルフローを考慮する必要がある。その概要が図表3である。
 この体系図の骨格はPDCAであるが、2つの流れがある。
  1. 第一の流れ<課題達成及び問題解決プロセスフロー>
    マネジメントを効率よく進めるための課題や業務運用上の問題解決のためのテーマに対応するためのプロセス(P1/D1/C/A)である。
  2. 第二の流れ<製品実現プロセスフロー>
    製品の市場ニーズ把握とこれに基づく企画・開発設計・製造・販売の一連プロセス(P2/D2/C/A)である。
図表3 統合マネジメントシステム体系図
図表3 統合マネジメントシステム体系図

 ここで、C(チェック)/A(アクション)は、同一の仕組み(規格項目)での運用としてまとめている。これは、組織(企業)活動の効果的かつ効率性を考慮したためである。

4.各マネジメントシステムと要求事項の展開

 統合化にあっては、各マネジメントシステムを進展させていくことであり、これを図表4に示した。
 第1ステップは各システムの持つ要求事項を整合化させた形で統合するシステム構築である。本書での対応もこのステップに主眼を置いている。
 第2ステップとしては、統合マネジメントシステムが社会的責任を果たすシステムとしての役割も期待される。企業の「社会的責任」の基本はトリプル・ボトム・ラインを重視したシステムを目指すことであり、統合化システムには財務的な内容が包含されなければならないことになる。
 最終的な展開としては、統合マネジメントシステムは「第三者審査」の形態というよりは、各組織(企業)の最良のシステムであり「自己宣言的」な姿であると思われる。

図表4 各マネジメントシステムの展開
図表4 各マネジメントシステムの展開


5.統合化マネジメントシステムのアプローチ

5.1 アプローチI

 統合化マネジメントシステムは画一的なものではなくいくらかのパターンがある。
 図表5にはその代表的なパターンを示した。

 統合化マネジメントシステムの分類としては大きく「一体型」と「整合型」に分けられる。

(1)一体型
 小規模な組織に適用し、マニュアルは統一として主として帳票で運用する。

(2)整合型
 このタイプには「規定統合タイプ」「本社統括タイプ」「複合タイプ」等がある。
  1. 規定統合タイプ
    このタイプは関連規定をなるべくまとめて無駄をなくそうとするもので、規定の共有化・共通化をはかり、手順は帳票を持って極力運用する。マニュアルは必ずしも統一でなくともよい。

  2. 本社統括タイプ
    このタイプは本社をベースに事業所展開を図るための統合化であり、グローバル企業が海外も含めて統括システムとするケースも含まれ、事例では環境マネジメントシステムに多く見られるものである。

  3. 複合タイプ
    このタイプは従来から設定されたシステムを基本とした組合せであり、特に共有・共通部分のみの一本化である。自然に無理なく統合化が図れるので短時間で対応可能である。
 本書では整合型の「規定統合タイプ」を基本にまとめている。このポイントは、規定及び手順書の「共有・共通」を基本とするものであるが、マニュアルは小規模企業を配慮して統合化のための事例として設定した。
 統合化システムで注意したいのは、冒頭述べたように単なる寄り合わせや統合と称して必要な深みのある手順をないがしろにすることは避けなければならない。

図表5 規模・業態・目的別統合化マネジメントシステム
図表5 規模・業態・目的別統合化マネジメントシステム


5.2 アプローチII

 統合マネジメントシステムへの取組の必要性は現状の運用の間違いから検討している。(図表6)
 第1は、ISO認証と称してコンサルタントが推奨する規定化を進めたため、多くの不必要な規定や手順ができてしまっているということである。ISOの各項目において規定が必要であり、また全ての活動および行動に対して手順書を必要とする考え方であった。
 第2は、品質マネジメントシステムから環境マネジメントシステム導入に当たり2重・3重の管理規定・手順書が設定されてしまったことが挙げられる。これらの規定では文書・記録管理や教育訓練規定のように管理が同一でありながら、複数設定されているものや現場の作業はプロセスとして品質や環境を同一手順書で運用しないと煩雑になるのに複数の手順が存在してしまったことである。
 第3は、本来的マネジメントシステムは、そのシステムの健全性を確保し、改善活動につながるものでなければならないが、その基本となる規定・手順が、単なる維持活動としてのもので企業改善活動につながらないものになってしまった。


6.統合マネジメントシステム規定・手順の設定と
  運用のための3つのポイント

 統合マネジメントシステムの基礎は、規定と手順であり、その設定と運用は重要である。
 第1のポイントは、経営者への適正な報告がなされ、その判断・指示及び経営資源の再配分が適正に行われることである。このことにより、システムの根幹である「継続的改善」が推進される。
 第2のポイントは、不必要な規定や手順を作らないことであり、そこには各マネジメントシステムで設定された規定・手順の共有化及び共通化である。この点は、つぎの項で詳しく述べることとする。
 第3のポイントは、最近の製品(サービス)の実現はテーマの規模も大きくプロジェクト型の運用が多くなってきている中で、この運用の効率化は総合化マネジメントシステムとして重要である。この運用の基本システムはISO9001であるが、加えてプロジェクトマネジメントシステムにおける品質保証の指針(ISO10006)を配慮することが必要である。

※当文章は「統合マネジメントシステム社内標準事例集」より引用。

図表6 統合化への現状と対応
図表6 統合化への現状と対応


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