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2004.02【特集記事−本誌編集部より−】
最新のトヨタ生産方式と
トヨタ生産方式が苦手な工場の構造改革法


関根憲一(付加価値経営研究所) 

 

I.最新のトヨタ生産方式とトヨタ生産方式が苦手な工場の構造改革法

まず、内部監査のやり方を分類し、平行法の利点をご覧下さい。
トヨタは物づくりについては、積極経営である。新JITとして、いくつかを紹介しよう。

1.一貫ラインの工場LAY OUT技術

プレス、鍛造、熱処理、機械加工、溶接、塗装、組立、検査工程を連結して一貫ラインにする。あたかも装置工場みたいなラインをつくる。LAY OUTを思い切って改善する。「タテ(縦)持ち」の思想から、あらゆる工程を連結していく行動力である。しかも1人1人の生産技術者にタテ持ちの思想が浸透している点である。
例えば、O工場では機械加工ラインに鍛造設備はもちろん、ゴムの加硫工程や高周波の焼き入れまで組み入れる。そうするとLT(P)の短縮比(R)は次式のようになる。
     1
R=──────── ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(1)
  工程連結数(N)

トヨタの連結能力はまさしく装置工業並で、一貫生産ラインをつくり1個流しにするのが得意である。
セルシオは35,000点を1,000ユニット化し、それをSCMモジュールにして組立しているので、42H、ハイラックスは30,000点を300モジュールにして26H、カローラは22HといわれるからLTは1/50になっているのである。

2.在庫及び中間仕掛品の削減技術

原材料及び部品は0.8日分、LTに換算すると約20H。自動車の部品点数は約3万点、100車種としても300万点が管理の対象になる。これを欠品ゼロにすることは不可能に近い。それをゼロにしたのであるから称賛に値する。しかも平均調達期間も0.8×24H=約20Hである。近郊は2Hであるから、かんばんの威力はすごい。これは中国が真似してもできない。
過去20年間のトヨタの経営数字を分析すると、原材料0.8日分、中間仕掛り品0.8日分、製品0.8日分で、計2.4日分の在庫である。その後、殆ど増減はないことから、トヨタでは「在庫ゼロの思想はない。むしろ「必要な在庫は持つ」思想なのであるその必要量が少ないだけなのである。
中間仕掛り品の在庫日数(W、T)×1日の稼動時間(H)………(1)
代入すると、0.8日分×24H=19.2H 約20H
従って、中間仕掛り品の圧縮によるLT短縮の成果は大きい。
方法としては、
  1. 工程ばらしによるUライン化、工程設計法、バッファはストアとして持つ。
  2. 層別した工程設計法
  3. 併行作業の実施。
  4. 工程待ちロット数の規制(定置定表定量、先入れ先だし。FW(フルワーク)で規制
  5. 生産順序指示。
  6. 必要な在庫と不必要在庫の区分、規制。
  7. 小ロット化技術。
以上の技法を上手に使いわけている。

3.段取りの改善技術

5200トンプレスの段取り替えが3分である。通常なら3時間かかるが、わずか3分でできる。3という数字は同じでも、時(H)と分(M)の違いがある。他業界に対し、1/60の圧縮力をもっている。塗装のカラーチェンジは魔術に等しい。昔30分、今2秒だからである。しかも組立の段替えは殆ど自動段替えになっている。

4.工程トラブルの代表は設備故障である。チョコ停の発生に悩み、すぐにTPMをや れという発想になるが、トヨタではそういう発想にはならない。「チョコ停が発生しない設備を設計せよ」という発想から設備を設計するので、MTBF(平均故障間隔)は昔2Hが、今40〜200Hといわれている。「TPMのムダ取り」が実践されているのである。

5.運搬のワンピースフロー

ワンピースフロー(1個流し)で最も難しいのは「1個ずつ運搬する仕組み」である。運搬ロットを1にすることが可能になれば、生産ロットも1になり、工程待ちも1になるから流れ作業が可能になる。

6.設備能力の平均化

各工程の設備能力にバラツキがないこと。生産技術部の工程設計能力が多機能である。工程設計をするとき、設備能力を均一にした設備を設計しあらかじめネック工程(制約条件)をつくらないことである。通常の工場はカタログエンジニアが多いので必ずといってよいほど設備能力にバラツキが発生し、負荷分析が必要になる。ネック工程は生産技術者が発生させているといっても過言ではない。トヨタは皆無である。

7.工程内不良3.4PPM達成技術

10年前部品不良は100PPMといわれていた。現在1〜10PPM。xで3.4PPMといわれている。これは協力工場の実力である。品質は検査でつくりこんでいるところもある。1台出荷するのに2000項目(900+600+500)検査している。

8.思い切った設備投資

表面けちけち生産方式であるが思い切った設備投資をする。世界の標準的自動車工場は年20万台、2000人、200、100台/人、自動化率95%、溶接箇所500、ロボット台数1000台(65%溶接)投資は700〜1000億といわれている。チャージは高くてもMT化率が高い。Eは95%。ダースでつくれば安くなるのである。

9.重量物がコンベヤー組立、完全な流れ作業。流し作業はない。屋台もセルもない。

10.SCMのモジュールの供給サイクルは1-12-2といわれている。運搬時間は5分位で すむからインラインに近い。一般のかんばんは遠距離は1-4-4、中は1-6-3、近は12-12-2といわれている。

11.協力工場も小ロット用兼試作ラインをもっているので、設計品質のよしあし、DR2の評価をきちんとしている。

12.高齢者、女子にもやさしいサイクルタイム、例えば45→134Sになっている。

13.5Sとか2Sという言葉はない。それを不要にしたきれいな工場レイアウトはある。

14.トヨタ生産方式イコール立作業であったが、組立時の工具台車についているらくらくシートは、目的により腰掛作業を認めている。

15.混合生産方式は完全に身についている。O社でもM社でも失敗したが、トヨタでは、いとも簡単に実施している。レベルのちがいがよくわかる。

その他については省略するが、トヨタ生産方式が適用できる工場は、まず、トヨタ生産方式を真剣に勉強することが中国に負けない物づくりになる。ただし日本では5%の企業である。準トヨタ生産方式は30、1部まねごとのトヨタ生産方式、たとえばセル、屋台、HT100%のUラインがつくれるところが30、残りの横目で見て通る工場が35%。上記の65%はトヨタ生産方式が適用しにくい工場、苦手とする企業である。

II.トヨタ生産方式が適用しにくい工場や苦手とする工場に向くTOC的経営構造改革法

1.TOCとは

  1. 制約条件によるムダとりが利益増大の鍵を握るというザ・ゴールの思想。切口は 制約条件(ネックポイント)発見
  2. 制約条件は1次層別を製造と経営面に分ける。
    2次層別を製造的制約(能力)、方針制約(しくみ)、市場制約(新商品開発力)と すれば6項目の山登りになる。

    制約条件
    対象
    製造制約 方針制約 市場制約 トヨタ生産
    方式の場合
    製造 第1の山
    ネック工程能力
    第2の山
    しくみ制約
    第3の山
    現商品の売上げアップ
    新現場7つのムダとり法
    経営 第4の山
    販売、営業能力
    第5の山
    本社集中管理
    第6の山
    新商品開発能力
    新経営10のムダとり法


  3. TOCの目的はスループット(限界利益、付加価値のこと)の最大化をはかる。
    スループットとは、売上高(S)から変動費及び余力(M)を引いた正味限界利益(ρ)または、実付加価値(ρ)をいう。ΣKとは固定費。Σρ全付加価値。
      S−M=ρ ‥‥‥‥‥(1)‥‥‥‥‥スループット
      利益(r)=Σρ−ΣK ‥(2)


  4. 在庫をもたずに生産し現金で販売すれば、キャッシュフローになる。
    第1の山は製造面の改善から入る。改善手法は継続的改善の4ステップ。
    QCストーリー、工程ばらし、IE的改善手法。ISOの継続的改善のステップと同じように、次のようにステップ化する。

    ステップ1.
    制約条件となるネック工程の発見、ネック工程とは負荷率の高い工程をいう。

    ステップ2.
    潜在生産能力を引き出す工夫をする。

    ステップ3.
    ネック工程を発見し、仕掛数を考慮したD(ドラムの略、加工のこと)B(バッファ、仕掛数のこと)R(ロープでブロック工程をつくる)の大工程をつくる。

    ステップ4.
    ネック工程の能力アップをはかる、場合によっては工程ばらしの準備をする。

    ステップ5.
    ネック工程をブロックUラインにして、最小人員でつくる。異常がわかるように目で見て分かるSPH管理に入る。
以上のように、第1の山は製造からスタートする。TPSも同じ。
第2の山は製造の方針制約、生産のしくみのネックポイント改善に入る。計画生産がネックである。
大きなテーマは在庫補充生産方式を実需生産方式に切替える。そうするとLTは1/5になる。第3の山は目標生産量を阻害する市場の変化、特に不況による販売量の低下が、最大ネックである。つくりたくてもつくれない制約条件をとる工夫をする。
以上のようにして第4、第5、第6の山をロック、クライミングしていくのである。

2.最小限必要なTOC用語

  1. TOC(Theory of Constraints)直訳すると経営構造改革法、ゴールド. ラット  博士の発案
  2. SYCS(Synchronized and Cornnected System)。同期化生産またはJIT。
  3. インプット→顧客情報にもとずいた生産準備。受注生産システムと在庫引当シス テムの2つがある。
  4. インプットシステム→生産計画及準備、調達手順
  5. アウトプットシステム→生産性、コスト確認手順
  6. アウトプット→顧客のQCDの満足度
    1. 販売予測型ロジック
        在庫設定ロジック(FW. OP. NWのこと)
    2. 受注型ロジック
    3. 在庫引当型ロジック(販売量補充型ロジック)
  7. キャッシュフロー。操業度(在庫)益や株の時価評価、引当金を認めない業績評 価制度+現金取引き
  8. リードタイム(LTとかく)
  9. 継続的改善の5ステップ→改善は1/2化→改革は1/5化を狙う
  10. 中核問題 真の原因
  11. サプライ・チェン・マネジメント(S. C. Mという、供給連鎖。トヨタのモジュール生産方式)
  12. スループット{出力。単位時間当たりの負荷価値(加工高)}、内ゼニ。
  13. ドラム、バッファー、ロープ(Dとは加工、Bとは仕掛量、Rとはブロック)バ ッファーとはいつおきるかわからないトラブルに対しての余裕時間、量。
    >必ずおこるトラブルを「マーフィー」という基本的考え方は、「ネック工程の加工(ドラム)の能力以上にアウトプットされることはないから」ネック工程を中心にロープで結ぶと考える。TPSではブロックUラインという。
  14. 制約条件。IEでいうネック工程と考える。スループット、リードタイム、D、B、Rの障害要因をいう。
            負荷数
     (1) 負荷率=────×100
            能 力
  15. CCR(制約経営資源、ネック工程のみでなく人の場合もある)
  16. ワークショップメンバー。TFT、QCサークルと同じ。
  17. 対立解消図‥‥‥一種のKJ法。

3.TOC7つのムダとムダとり案

  1. TOC最大のムダは経営改善指標がないこと。株主、会社、従業員へ1/3づつの利益配分を考えると、スループットは労働分配率になる。TOCは33.3%という。 T社は20%、下請は50%が目標。そうすると第2、第3の山登り展開が、容易になる。
  2. 製造面での応用は、第1の山はLT短縮、在庫削減、SCM段取り改善、ネック工程 の能力アップというように通常のIE技法になっている。改革とは1/5化の技法でなければならない。
  3. 不良対策がぬけているムダ。通常の会社のネックは不良になる。トヨタ最大のムダも不良のムダである。TOCにはそれがない。
  4. 第2、第3‥‥第6の経営改革のプロセスがない。
  5. 在庫ゼロといいながらその方法をしめさないムダ。TOCの中味は在庫補充方式。 これでは在庫ゼロにはならない。革新にもならない。
  6. DBRといいながら中味は工程ばらし、ブロックごとのUラインづくりである。
  7. 継続的改善の5ステップといいながら中味はQCストーリーと同じムダ。

4.TOC,現場7つのムダ

TOC7つのムダとして下記、提案する。
  1. 不良、クレームをつくるムダ
  2. LTが長いムダ
  3. 在庫をつくる計画生産のムダ
  4. 物の停滞(手痛い)や運搬のムダはレイアウト
  5. 人の動きの停滞、手待ちのムダ。
  6. 動作(モーション)がおそいムダ。1動作が0.8秒以上になっているムダ。
  7. 段取り時間がシングル(9分)ゼロ段(3分以内)にならないムダ。

5.TOC経営10のムダ

経営構造確信として下記、提案する。
  1. 「つくりたくてもつくるものがないムダ」
  2. 労働分配率が高くても自由にリストラできないムダ
  3. 難易度の高い商品のため不良が下がらないムダ
  4. 操業度益の業績評価(生産計画必達体制)
  5. 在庫補充方式が成功したので在庫は必要とする考え方を大幹部がかえないムダ
  6. 設備改善に必要なお金をかけないムダ
  7. IE的(現場改善技術)センスをもっている人を登用しないムダ
  8. ヨコ持ち(機種別)レイアウトが自動化しやすいので最もコストが安くできるという思想の持ち主が多いムダ
  9. 大型設備のため、工程ばらし(たて持ち)が出来ないムダ(大鑑巨砲型設備が好きな社長)
  10. 利益第1主義のためうそを平気でいい、それを是認するトップのムダ

6.S社でTOC実践のプロセス

TOCを導入したS社の実践プロセスは次のとおり。
  1. テーマの選定
    1. CT1/2化
    2. 在庫1/2化
  2. ネック工程の設定
    ウエハーの場合は、自動的にフォトマスクになる
  3. 原因は3つ
    1. 現場のムダ
      (1)工程レイアウトがわるいための手待ち。
      (2)段取り時間が長いムダ
    2. 生産管理のムダは生産編成(受注の週間組み入れ不十分)
    3. 不良のムダ
  4. ネックの真因(中核問題)は何か
    1. 人質管理
    2. 設備トラブル
    3. 最適加工条件(フォトリン)の未完
    4. ムダの定義及びムダ発見の努力不足
    5. 幹部のIE(工程別負荷、余力把握不十分)不足
  5. 5)ネック工程の能力アップ対策。アイデア決定、即実践
    M(マシン)−M(マン)稼動分析の結果
    1. 停止時間のパレート分析、原因除去対策
    2. 品種切替え時間(60分)の1/2化、特にCVD(薄膜生成)工程及びチャンバ清掃時間の短縮
    3. スッパタ工程の最適条件の設定
    4. シグマーマシンの早期異常発見のため検査保全間隔の決定
      (マーフィー防止という)
    5. サイクルタイム短縮による処理能力向上
    6. 成果
      (1)バッファ(仕掛品)の1/2化
      (2)LT1/2化
      (3)生産能力向上
    7. コメント。半導体、電子部品づくり、装置工場は初歩のIEであるM-M分析をまずやり、設備のムダ、人のムダ、組合わせのムダを分析すること。なにもTOCに教育費としてお金と時間をかける必要はない。
      S社はまず、トヨタ生産方式を真剣に勉強し、トライすることである。第2は「幹部のIE]をやることである。



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