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2003.04【特集記事−本誌編集部より−】
−その生産方式で生き残れますか?−
ビジネスモデル転換で中国に勝つ

 
中国シフトによる製品価格ダウンはとどまるところがない。新たな中国の巨大市場を求めて、あるいはより安価な部品・人件費を求めての中国進出に対抗し、利益を生み出し勝ち残るには、単純にセル生産方式を採用すればいいというものではない。ビジネスモデルにまで踏み込んだ改善・改革が求められている。



◆◇安価な労働力に対抗するセル生産方式◆◇

中国の安価な人件費に対抗する手段としてセル生産や1個づくり、1個流しが多くの工場で採用されている。たしかに製品寿命の短い商品の在庫を持つリスクは大きく、1個づくりにして在庫を削減することは大きな課題である。また、セル生産は生産に合わせて人員を調整することが可能だ。このため、人件費を固定費から変動費へとシフトさせられるため、キャッシュフローの上でも評価されることであろう。
だが、これだけでは中国には勝つことはできない。中国シフトは他の国がやっているのではない。他ならぬ日本の企業が推進しているのであり、社内では合理的な生産方法を構築しつつある。しかも、中国では能力が給与に直結する仕組みとなっており、従業員のモチベーションはすさまじいまでのものがある。さらに、人口が多いことから「身長156センチメートルプラスマイナス2センチ」といった採用も可能であり、手先も器用である。
この中国がセル生産を開始したら・・・・。価格競争をするのでは勝ちようがない。

◆◇ビジネスモデルの転換で生き残る◆◇

そこで、ビジネスモデルの転換となる。
「コスト」ではなく、「納期」で勝負するものだ。たとえば、トヨタ自動車では昔 75日かかっていた受注から出荷までのリードタイムを32時間に短縮した。
製品ライフサイクルが短いということは市場に連動した生産が要求される。これに対応できる実力をつけ、国内市場で生き残る。一方、リードタイムが短いことは「受注忘れの購買担当者にとっての救いの神」であることから、ビジネスチャンスの拡大にもつながる。これを実現するためには段取り時間の短縮、不良の低減が必要になる。たとえば、ボルト類や調整をなくし、余熱温度管理を厳密に行うことで段取り替えが容易になる。
これは1個流しでも必要な要素である。また、不良は工数、部品・材料・エネルギーを使用する最大のロスであるが、不良率が多ければ、出荷に間に合わないケースを想定し、より多くの在庫を抱えるか、リードタイムを長くとる必要がある。現実問題として、これでは利益が出ない。
だが、リードタイム短縮だけではあくまでも受身である。そこで、攻めに出るためには長期的視野に立脚した新商品・新機種の研究・開発をしていく必要がある。とはいえ、すべての分野で勝負するのはムリである。そこで、大胆なまでの選択と集中、集中分野への投資などの経営的な課題が出てくる。
技術開発については、効率的開発のためにタグチメソッドなどの活用やクロスライセンス、M&Aによる技術獲得があげられる。これに伴った人材、とくにエンジニアの育成も大きな課題である。こうしたオリジナル技術の開発が強固な市場シェア獲得と競争力確保につながっていく。韓国のサムソン(三星)電子が好例であろう。

◆◇コストダウンに終わりはない◆◇

中国との競争ではコストそのものが問題となっているが、日本国内の工場でもまだまだ改善の余地がある。一つには簡易自動化であり、ロボットによる無人稼働だ。
ちなみにトヨタ自動車の自動化率はコンベヤ組み立てで20%、溶接で99%、機械加工で95%超といわれている。セルの泣き所である自動化率の低さと比較すると、コスト面での優位さがよくわかる。設備投資は大きくなるが、少人化によるコストメリットとの兼ね合いである。ただし、製品ライフサイクルが短くなっている昨今、この設備投資金額が回収できるかどうかの見極めが大きなポイントになることは疑いのないところであろう。
そして、自動化にも手順があり、この下地として工程ばらし、ムダとりが重要であることはいうまでもない。

【改善前】 改善前、ライン未整備

【改善後】 改善後、ラインを整備



ラインの流れを整えることで効率もアップする
「中国に負けない工場」より

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本稿は「中国に負けない工場 中国でのトヨタ生産方式を指導した体験からの提案」(関根憲一編著)をもとにテクノビジョン用に書き起こしたものです。なお、このマニアルをテキストとしたセミナーが6月6日に開催されます。


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