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2002.05【特集記事−本誌編集部より−】
スピード経営に欠かせない「リードタイム」短縮

 
ITの発達により、考えられないほどのスピードで社会が変化している。「情報」「デザイン」「コンセプト」など形にならないものが付加価値を生み、またその移り変わりは速い。こうした時代において、ほんの少しのタイミングの差が製品の売れ行きを左右し、対応の遅れが企業の存続そのものを脅かす。「リードタイム短縮」は長いこと取り上げられてきているが、その意味をいまほど問われている時代はないのではないだろうか。

●スピーディでなくては生き残れない

経営スピードが重視されている。
商品のライフサイクルは短くなる一方であり、財務体質でもキャッシュフローが重要視されている。デジカメメーカーが海外にシフトしない理由は市場の変化が激しく、船便で行き来している間に売れ筋商品が死に筋商品に変わってしまうためだ。
e調達はたしかにコストダウンをもたらすが、同時にそれは最速で最適な部品を調達するメリットがあるゆえに普及したともいえよう。
日本能率協会が2001年暮れに行った「直面する企業経営課題に関する調査」(配布数2723票、有効回収数467票)でも現在の課題認識の10位に「スピード経営」(11.8%)が入っている。1位から3位が財務体質強化、ローコスト経営、売上高あるいはシェアの向上という企業が抱える大きなテーマが入っていることを考えるとスピード経営がいかに重視されているかが分かる。
さらに同調査の「営業・マーケティング戦略で重視しているアクション」(マルチアンサー)では高付加価値型商品・サービスの開発(43.5%)につぎ、「商品開発のスピードアップ」(31.0%)があがっており、経営だけでなく、次期商品投入のスピードも問われている。
さて、そのスピード経営を支えるのはリードタイムの短縮であろう。
ここでいうリードタイムとは単に材料投入から製品が出来上がるまでという製造リードタイムではない。「受注から製品が顧客のもとに要求された品質で届くまで」である。開発や設計も含まれる。
また、いくら受注確定が早くても、生産指示書や外注部品の納入が間に合わなければ、トータルでのリードタイム短縮にはならない。つまり企業のあらゆる部門でのスピードアップが求められているのである。

●リードタイム短縮のために

では、リードタイム短縮はどうすればできるのか。
ここで忘れてはならないのが、「リードタイム」という切り口でモノづくり全体を見渡すという視点である。
そもそも目的は「よい品を安くタイムリーに顧客に提供する」ことである。
リードタイム短縮にばかり目が行き、柔軟性のないラインを構築したり、特定の工程だけを自動化したり、あるいは品質で妥協したりするのでは意味がない。
リードタイムが短いからこそ、設計の手戻りや工程内不良による時間のロスは許されない。そのためにやりにくい作業やムダを排除し、作業効率の向上を図らなくてはなくてはならない。
全社的にはERPの導入やコンカレントエンジニアリング、コラボレーション、ナレッジエンジニアリングなどがこのリードタイム短縮のツールとして考えられる。
一方、リードタイム短縮は在庫(仕掛り、製品)スペースを少なくするメリットもある。部品や製品が小さく、建屋に余裕がある場合はスペースについて取り上げられるケースはあまりない。しかし、都市近郊で拡張が難しい、製品が大きく一つひとつでスペースを多くとるといったケースでは、在庫スペースがどこまでとれるかという点も、出荷のタイミング決定に大きな影響を与える。
ちなみにホンダ狭山工場は東京近郊に立地するため、民家が目の前まで迫っており、工場の敷地面積の拡充はできない。そのため、完成車を出荷まで置いておけるスペースが限られている。そこで、受注後、4時間以内出荷をするが、必ず時間内で出荷するために不良をつくらない仕組みを構築し、作業者の熟練を図る。
リードタイム短縮というテーマは言い古された感もある。小集団活動でも必ずあがり、段取り時間の短縮などで製造リードタイムを短くすることは、現場レベルでも恒常的に行われてきた。
だが、いまほど、スピードが求められ、営業、企画、開発、設計、製造、品質、経理、顧客対応にいたるすべての企業活動においてリードタイム短縮を必要とされ、スピード経営に直結していた時代はあっただろうか。
「製造リードタイム短縮 決め手はコレだ」はこうした時代ニーズに合致したセミナーである。「製造」に絞ってあるが、リードタイムへの新しい視点を必ずや提供してくれるはずだ。
設計部門では「真に国際的な競争力のある商品を短期間で開発するために コラボレーションで成功するための社内インフラづくりと成功事例」(5月31日)なども参考にされたい。

●時代の変化にフレキシブルに対応できるセル生産方式

作成・石井恒男

さて、設計、製造とあらゆる場面でスピードが求められる現在、それに対応した生産現場が必要になる。
たとえばセル生産方式。製品の組み立てを一人、もしくはグループで担当するこの方式では1.生産量の調節がしやすい 2.複数製品の組み立てを同時にできる 3.ラインの調整がいらず、新製品などへの切り替えがフレキシブルに行えるなどのメリットから取り入れられている。古くはボルボにおけるチームによって完成車をつくった「カーマル工場」や一昔前ではホンダ和光のエンジン工場がある。
ホンダでは一人で組み立て、その品質に対して絶対の保証をする。「(自分の名を)サインしたい」というほどの情熱が現場を支えた。
工作機械の組み立てをこの方式に切り替えた森精機では流れ作業の欠点であった手待ちや手空きを減らすなどして所要日数を3分の1に短縮できるとしている。さらに製品・部品在庫を削減する。リードタイムの短縮と在庫の削減である。
このセル生産方式はソニー、松下電器産業、キヤノン、NECなどでも取り入れているが、単純作業ではなくなるため、多能工化など、作業者のレベルアップが必要となる。それゆえ社員教育が大きなポイントとなる。一方で、流れ作業ではないため、作業者のモチベーションアップにもいい効果をもたらすようだ。
なお、セル生産方式導入のセミナーについては「真に成果の出るセル生産ライン・U字ラインのつくり方」で紹介している。ご受講をお勧めする。

(本稿はカイゼンプロ 石井恒男氏の講演内容を基に、編集部が加筆いたしました)


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